J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題17:検討編④~規制②の後半~

3 判断枠組みの定立

 知らない権利であっても、保障根拠さえわかっていれば、総論的思考で対応は可能です。上記の知識の整理を前提とすれば、移転の自由の保障根拠は、経済的側面と精神的側面と人身的側面の3つの側面を持っていると考えられます。この保障根拠との距離感、保障根拠へのインパクトを考えていきましょう。

 

⑴ 権利の重要性

 権利の重要性とは、保障根拠との距離感を考えていくのでした(21頁)。本件では、どのような目的をもって特定区域を通行するのかは様々な想定ができます。

例えば、会社への出勤に自家用車を利用することや営業活動を行うために自家用車を使用することなどという目的で通行するのであれば、経済的側面を充足します。また、講演会や交流会などへの出席という意味では精神的側面を有します。このような事情からすれば、特定区域を制限なく通行することは、経済的・精神的な発展を促すものであり、“特定区域外の住民が自家用車で特定区域を制限なく通行する自由”は重要な権利であるといえるでしょう。

 

⑵ 制約の重大性

 制約の重大性とは、保障根拠へのインパクト度合いです(21頁)。

 制限なく通行はできないとしても、その特定区域を通らずに現地にたどり着くことが可能である場合もあります。その場合、自助努力により制約の克服は可能と考えられます。また、一部の時間帯に制限していますから、全面的な禁止と比べると制約の程度は小さいと考えられます。さらに、生活路線バスなどの他の手段により通行可能であれば、移動の方法についての制限にすぎず、移動自体はできるため、インパクトの程度は小さいともいえます。

 他方で、その特定区域に用事のある人はその時間帯に出向くことができなくなり、交流や営業の機会が失われるともいえます。また、各特定地域で曜日や時間帯の限定した場合、どの区域であればどの時間帯に通行できるのかについて記憶して行動しなければならず、これに反すると過料の制裁もあり得る(法案第5-2)ことから、予測可能性に基づく行動が困難になり、特定区域の通行に対して大きな萎縮効果をもたらすとも考えられます。

 以上のような観点を踏まえた詳細な検討が求められていると考えます。なお、個人的には、予測可能性に基づく行動が困難であるという点は人身的側面の大きな制約である点他の手段により通行はできる以上問題はないという点をどのように捉えるかが重要になると考えます。

 

⑶ 裁量

 規制②は、道路交通に関する規制です。そうだとすれば、道路管理者に対して一定の裁量があると考えます(根拠となる条文は現場で手に入らない以上、答案に書くのは難しいです。おそらく道交法だと思いますが…。)。また、公共的側面が大きいため、裁量が多分に認められるとも考えられます。他方で、規制②の目的は専ら住民の生命・身体の保護や平穏な生活の維持ということからすれば、消極目的ともとれ、裁量の幅は狭まるとも考えられます。

 裁量についての検討をする上では、裁量の有無・程度の各観点において、根拠・理由を示しつつ展開する必要があります。

 

⑷ 判断枠組みの定立

 以上を踏まえて判断枠組みを定立することになります。移動の自由はあくまでも経済的自由の一つであり、派生的に精神的な側面・人身的側面を有していると捉えるのであれば、厳格基準を用いることはやや判例と齟齬があるとも考えられます。

 

4 個別的具体的検討

 規制②の目的は、渋滞によって住民の自家用車やバスによる移動が著しく困難になり、住民の移動を確保するとともに、生命・身体の保護することであると考えます。そうであれば、いずれも憲法上の権利の保護であり、重要な目的といえます。

 手段としては、特定区域外の住民に対し、一定の時間帯、特定区域の自家用車での通行を禁止するものです。この点については、ある観光地の住民の声に触れなければなりません。渋滞の原因は観光バス等にあるため自家用車のみを規制してもあまり意味がない、すなわち、目的を達成することはできないというものです。このような指摘は説得的な指摘であると考えられ、自家用車が渋滞の原因であるとの立法事実が必要ではないかということになりそうです。観念的には目的は達成できると考えられますが、根拠となる事実までを求める判断枠組みを定立した場合、その点については問題文に事情がないことから、立法事実を欠いているとも考えることができます。

 以上のように、目的と手段との適合性についての検討がポイントになるでしょう。

 

5 結論

 以上の検討からすれば、適合性の検討として立法事実等の根拠が必要かどうかがポイントであり、判断枠組みの検討が重要になってくるでしょう。

 移動の自由というやや馴染みのない権利であっても、保障根拠さえわかれば検討は十分に行うことができます。本当に保障根拠がわからなければ、考えるしかありません。考えれば、人身的な側面くらいは思いつくと思います。そこまで思いつけば、合格になり得る答案を書くことは可能でしょう。

 

Ⅳ 全体を通して

 規制①は職業の自由についての基本的な知識(薬事法違憲判決の理解)を前提に、具体的事実に即していかに検討していくかがポイントなっていました。規制態様・規制目的をどのように評価するかがポイントでした。個別的具体的検討では、当該手段の必要性(相当性)の検討が鍵になっている印象です。

 他方で、規制②は移動の自由という馴染みのない権利に対して、具体的事情を考慮して検討することを求めています。判断枠組みの定立において、規制①と比べて悩ましい事実はほとんどなく、総論的思考を駆使すれば対応は十分に可能です。個別的具体的検討では、当該手段の適合性の検討が鍵になっていました。

 規制①・②を通して、各論知識を前提に総論的思考の全体的理解と実践を求めており、司法試験の出題傾向に変化は全くありません。具体的事実について、どこまで踏み込んで考えるか、評価するかで合否の差になったのではないでしょうか。

Fin

検討課題17:検討編③~規制②の前半~

Ⅲ 規制②について

1 入口の特定

 規制②についての不満は、特定区域外の運転手が自家用車を利用して、一定の時間、特定地域を移動することができないというものです。

違憲の対象は法案第5-1です。具体的自由は“特定区域外の住民が自家用車で特定区域を制限なく通行する自由”と設定できます。そして、権利・条文の選択としては、あまり馴染みがない人もいるかもしれませんが、移動の自由(22条1項)です。移動の自由については、平成28年度司法試験の解説などで振れられていることがありますから、受験生としては押さえておくべきものです。

 

2 憲法上の権利の制約

 移動の自由については、本書には記載がありません(改訂にあたって書き足すべきでしたが、完全に失念していました。)。移動の自由については、検討課題12:検討編②(検討課題12:検討編②~原告の憲法上の主張~ - J-Law° (hatenablog.com))で記載していますが、ここで居住移転の自由・海外渡航の自由についての知識を整理しておきます(該当部分をコピペして、印刷して本書に挟んでおくといいと思います。)。

 

⑴ 知識の整理―居住・移転の自由、海外渡航の自由

⒜ 居住・移転の自由(22条1項)

 「居住」とは生活の本拠を定めることで、「移転」とは生活の本拠を移すことです。生活の本拠の決定は自己に委ねられるべきであることから、人格の発展に不可欠の権利とみなされます経済的自由の側面だけでなく、自己の好むところに移動するという人身の自由の側面他の人々との幅広い人的交流を通して人格形成に深く寄与し精神的な自由の側面ももっています。

移転の前提として、移動の自由が保障されていると考えられますが、上記の性質を持ち合わせていないと、その権利の重要性は低くなってしまうでしょう。居住・移動がいかにできないか、という点から制約の重大性を検討することになります 。

⒝ 外国移住及び国籍離脱の自由

 外国移住とは、外国に生活の本拠を移すことなので、単に移動し、そこで一時的に生活すること以上の現地での定着が想定されています。

 そうなると、一時的海外渡航の自由が認められるかが問題となります。判例 は、「外国へ一時旅行する自由をも含む」としています。永続的な移住が保障されるならば、一時的な旅行も当然保障されると考えるからです。もっとも、生活の本拠を自己決定に委ねることが、保障根拠ですから、そこから離れる以上、権利の重要性としては下がります。

 国籍離脱の自由には、個人の意思で国籍を離脱する自由、国籍を離脱しない自由としての国籍を恣意的に剥奪されない自由も含まれます。

 

⑵ 本問の検討

 “特定区域外の住民が自家用車で特定区域を制限なく通行する自由”は、「移動」にあたるでしょう。なお、経済的自由としての側面での通行を行う人もいれば、講演会などへの参加など精神的な自由としての側面で通行する人もいると考えられます。主体を限定していないため、様々な場面が想定できます。

 本件では、特定の時間帯に特定区域を通行することができなくなっているため、制限なく通行することができません。そのため、制約が認められます。

 

検討編④へ続く。