J-Law°

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検討課題3:検討編②~本問の検討1:憲法上の権利の主張~

Ⅲ 本問の検討1-憲法上の権利の主張

 では、本問の検討をしていくことにします。本問では、弁護士会とその構成員であるXの権利との関係ですから、上記の判例を手掛かりにして定立した判断枠組みを応用します。

 そうすると、Xの簡潔の主張は、「義捐金として通常会費の中から各1000万円を寄付すうことの決定(以下「本件決定」という。)は、①弁護士会の目的の範囲を超えるものであり、無効である。また、仮に目的の範囲内であったとしても、②本件決定は協力義務を超えるものであり、公序良俗に反し無効である」となるでしょう。

 

1 判断枠組み

 このような主張について、検討していくことになります。①目的の範囲内か否か、②協力義務に反するか否か(公序良俗に反するか否か)について、審査密度を確定しなければなりません。考えるべきポイントは、Ⓐ団体の公的性格の有無、Ⓑ脱退の自由の制約の有無、Ⓒ構成員の権利に対する規制態様の3つでした。今回は、Ⓒの要素は個別具体的検討の中で見ようと思います。

⑴ 個別事情による審査密度の検討

 団体の性格については、弁護士が社会正義を実現することを使命としている(弁護士法1条1項)ことから、営利団体ではなく公的団体であるといえます。ただし、公的といえども弁護士の活動範囲は「社会正義の実現」という目的のために行われるものですから、具体的な目的をもった団体とは一線を画するといえそうです。つまり、弁護士会公的団体といえども活動の幅は柔軟で、かつ、広いと考えられます。

 脱退の自由については、弁護士は日弁連に登録されなければ弁護士としての活動はできません。そして、日弁連に登録するには弁護士会を経て登録を請求しなければなりません(法9条)。このような事実からすれば、強制加入団体といえます。もっとも、どの弁護士会に所属するかは自由です。つまり、都道府県レベルでの弁護士会の所属については、所属弁護士会を変更することができます(法10条1項、同36条)。その意味では、各弁護士会については脱退の自由の余地があります。しかし、その都道府県でやりたい弁護士にとっては脱退したくないものです。そうすると、実質的に脱退の自由はないことになります。

⑵ 審査密度の決定

 以上の検討を経て、目的の範囲及び協力義務の程度について、慎重に判断すべきであるか、それとも緩やかに判断すべきであるかを決定する必要があります。この点、具体的な判断枠組みとして表現をすることができるのであればした方がいいのですが、それが無理ならば「慎重に」などという抽象的な形で構いません。

 

2 個別具体的検討1-目的の範囲内か否かー

 まず、目的の範囲については、目的の認定をしなければなりません。弁護士会の目的は、個人では困難な社会正義の実現について団体としての活動をすることで社会正義の実現を図ることであると考えられます。この目的については、各自で考えなければならないところです。このように抽象的な目的ですから、義捐金の提供は含まれるでしょう。ただし、南九州税理士会事件と群馬司法書士会事件の対比から、前者は議員献金に対し後者は他の司法書士会という送付先に着目しています。本問の送り先は、東北の弁護士会ではなく、日本赤十字社弁護士会とは異なる団体)です。この違いが本問においてはどのような影響をもたらすのか考えなくてはなりません。

 

3 個別具体的検討2-協力義務の範囲内か否かの検討―

 不利益が公益を上回るものであれば、公序良俗に反し無効ということになるとの判断枠組みであると仮定すると、不利益の程度を検討することになります。この不利益の中の一要素として、Ⓒの要素が出てくると整理し、以下検討してみます。

 権利の制約の態様はどうでしょうか。本問における決定は思想良心の自由(憲法19条)に関係するものでないです。そのため、思想良心の自由への制約を理由とするのは妥当でありません。南九州税理士会事件などは政治的決定という点があったからこそ思想良心の自由への制約が問題となったのです。本問では、「会費の支払いの拒否は直ちに会員資格の停止(弁護士としての活動の禁止をもたらす)となる」という生の不満が指摘されています。これを憲法っぽく構成すると、本件決定が弁護士としての活動の自由を制約するとの主張であると考えられます。では、弁護士としての活動の自由は憲法上の権利としてどのように基礎付けられるでしょうか。これは職業選択・遂行の自由(憲法22条1項)にあたると考えられます。そのため、職業の自由への制約の程度が問題となるのです。そうすると、参照すべき判例は、最大判昭和50・4・30民集29巻4号572頁〔薬事法違憲判決〕[Ⅰ—92]です。この判例理論を応用することになります。

⑴ 薬事法違憲判決の分析

⒜ 薬事法違憲判決のロジック

 薬事法違憲判決は、職業遂行の自由が保障されることを示した上で、「職業は、前述のように、本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であって、その性質上、社会的相互関連性が大きいものである」と認定し、「公権力による規制の要請」が強いとされました。

 判断枠組みの定立については、ここからです。まず、目的の多様性・規制の多様性があることを踏まえて、一律に論じることができないと評価し、比較衡量という一般的な基準を定立しました。すなわち、「具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。この場合、右のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務」であるとして、立法裁量を認定しています。

その上で、この立法裁量の範囲について、「事の性質」を考慮することで、より厳格な判断を導こうとしています。「事の性質」とは、当該職業の人格的関連性を基礎に、「規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして」決するものです。

 薬事法違憲判決の場合、許可制という制度は「単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのもので、職業の自由に対する強力な制限」とし、まず、事前規制か事後規制かの検討をし、許可制が事前規制であることを指摘しました。そして、規制目的について、消極目的規制であるとし、いわゆる厳格な合理性の基準を提示しています。この基準に従い、許可制「そのもの」については、端的に合憲であると判断しています。

 もっとも、個々の許可条件について別途検討をしています。すなわち薬事法違憲判決における規制は距離制限を掲げる適正配置規制であることを前提に、LRA定式に持ち込んだと考えられます。

 このように、立法裁量を認定した上で、規制態様・規制目的の観点から厳格さを求めていく形が薬事法違憲判決の判断枠組みです。

⒝ 「事の性質」の考慮事情

 「事の性質」の考慮事情について、少し詳しい検討をしていきます。薬事法違憲判決はまず、事前規制か事後規制かという検討をしています。この点、事前規制であれば、職業活動そのものが行うことができず、保障根拠としての人格的価値を大きく損なうことになります。他方、事後規制(開始時間の規制や食品衛生法による規制など)であれば、職業を行うことができている以上、人格的価値を阻害することにはなりません。ただし、事後規制であっても、当該職業活動にとって重大な要素であった場合、当該職業活動ができないと考える余地はあります。例えば、簡易な洗髪設備で営業してこそ意味のあるような理髪店については、簡易な洗髪設備では足りないとする規制に対しては、人格的価値を大きく損なうことになるため、実質的な事前規制との評価が可能です。

 次に、事前規制にあたるとして、主観規制か客観規制かの検討になります。主観規制とは自助努力により克服が可能な規制です。客観規制とは自助努力により克服ができない規制です。前者の場合、克服が可能である以上、人格的価値を達成できるため、制約の強度は低いと考えます。対して、後者の場合、どうしようもない以上、人格的価値を全うすることはできず、制約は大きいとなります。

 最後に、規制目的です。消極目的と積極目的があります。積極目的とは、「公民経済の円満な発展や社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的な」目的の場合、達成手段が複数考えられるので、比例原則を妥当させることが困難であり、そのため国会の判断に委ねられるべきです。そのため、より緩やかに判断されます。対して、消極目的は、「社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的な」目的の場合、伝統的な比例原則が妥当するため、裁判所による審査に適していることとなり、裁量が認められにくくなります。そのため、裁判所の審査が優先し、厳格になるでしょう。

 以上の三要素から、判断基準を定立することになります。なお、この判断基準については、実質的に目的手段審査を用いていると評価できるため、目的手段審査を用いれば足ります。

⑵ 本問における職業の自由への制約

 薬事法違憲判決のロジックを本問に適用してみます。注意しなければならないのは、本件決定や会費の支払いというのが弁護士の活動との関係でどのような制約をもたらすかという点について検討しなければならないということです。検討対象を誤ってはいけません。そのため、“規制”という表現にやや違和感が生じてくるかもしれません。答案上は適宜置き換えるようにしましょう。

 まず、事前規制か事後規制かという点を検討していきます。会費の支払い自体は弁護士の活動と関係のない部分であり、許可制などの事前規制というよりは事後規制であると考えられます。もっとも、会費の支払いを拒絶することは会員資格が停止しています。そのため、活動そのものの門を閉ざすことになってしまうことになり、これは実質的な事前規制とも考えられます。

 次に、主観規制か客観規制かです。本件決定に従わないと弁護士としての活動ができなくなってしまうことから、本件決定は自助努力によりどうすることもできないものと考えられ、客観規制に匹敵するものと評価できます。もっとも、弁護士会を移動することは可能です。その意味でA県弁護士会に従いたくないのであれば、他県に移動することで回避することはできます。移動すれば、少なくとも来年度の通常会費の徴収を回避することはできます。このように自助努力により弁護士としての活動を継続することはできます。

 最後に、目的についてですが、この点については立法裁量の場面ではありません。ここは団体の裁量権(統制権)に置き換える必要があります。例えば、積極的目的であれば、弁護士会裁量権を尊重すべきという感じです。本問における本件決定の目的は、被害市日本大震災で東北地方が甚大な被害を受けたので義捐金を送ることです。これを積極目的になると考えると、弁護士会の統制権を尊重すべきであると考えられます。ただし、そもそも立法と司法と同様に、団体と司法の関係を考えることができるかは疑問が残るところです。そもそも、団体の活動については団体の意思を尊重するのが当然であり、それに司法権が及ぼしやすいか否かという観点から審査密度を決めるのは妥当でないといえると思います。また、ここでの検討は、あくまでも、権利の制約の程度にすぎません。そのため、あえて規制目的二分論の議論を持ち込む必要性はないように思います。

⑶ その他の不利益要素

 本問では、通常会費という点から弁護士会員からすると当然に負う義務にすぎないと考えられます。このような点からすれば、協力義務の範囲を逸脱するものではないと考えられます。もっとも、その額が各1000万円(合計3000万円)であることからかなり高額なものとなっています。そのため、構成員への経済的負担も不利益の内容に含まれます。

⑷ 結論

 以上の検討を経て、過剰な協力義務かどうかを考えます。仮に、脱退の自由がなければ、このような不利益を受けざるを得ず、公益が上回ることは難しいと思います。ただ、他の都道府県に行けば、このような不利益は回避できます。つまり、本問において一番重要な検討は、脱退の自由の有無だと思われます。

 私人間効力の問題=思想良心の自由の問題という関係にはありません。慶應ローの問題の1つの類型としての判例型の問題として、さすがって感じの問題です。

 

※この問題は、司法権の対象になるかも論点としてあります。明日はその部分の検討資料を掲載します!

検討編③⇒https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/16/161028