J-Law°

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検討課題5:検討編①~憲法判例の射程とは?~

Ⅰ 憲法判例」の射程

 判例とは,先例としての価値のある判断部分でした。憲法判例も他の判例と事情が変わらず,正確には,先例としての価値のある部分のみが判例です。しかし,憲法に関する判断がなされる判決は,他の法律と比べて,少ないです。厳格に先例としての価値のある判断部分のみに限定していますと,憲法を学習するという試み事態が困難となってしまいます。そのため,憲法における「判例」とは,比較的広義の意味であり,憲法に関する判例理論という意味で用いるのが多いといえます。

 では,「憲法判例の射程」とは,どのように考えればいいのでしょうか。憲法判例の学習について述べた駒村圭吾教授の文章が参考になります。「判例のReverse Engineeringは,①判決文を解剖してその論理構造を明らかにし,別の事例への応用を試みるものであるが,そこにはもうひとつの作業があり,それは,②明らかになった法理の構造が,一体いかなる原理・思想によって正当化されているかを解明する仕事である」という文章です[1]

 まず,最高裁判所の判断の内容を理解することです。つまり,結論命題はいかなるもので,それを支える理論・論理はどのようなものかということを分析します。そして,その理論・論理(判例理論)が他の事案に適用できるかを検討します。その際,一般的に応用可能な判断枠組みなのか,具体的事実との関係でしか適用できない論理なのかを考えていきます。

 こう考えると,今まで学習してきた「判例の射程」からすれば,判例の射程外であることが多いのが前提にあり,そのうえで,射程外であっても同様の検討をすることができるか(代替的事情として利用できるか)ということを判例理論レベルで行っている,と考えておけば,憲法判例の射程を意識したものと言えそうです。つまり,憲法において,判例を利用するというのは,判例理論を適用し同様の思考になるかの検討が重要なのです。

 

Ⅱ 知識の確認―平等権

 平等権には三段階審査を使いません。AとBとを区別した時点で平等権を制約していることになるからです。なので,別異取扱い⇒正当化の二段階で審査することになります。

 平等権一般の論証は「法の下の平等」の解釈をしていくことからスタートです[2]「法の下」とは,法の適用のみならず法内容の平等までを求めます[3]というのも,法内容が不平等だと平等に適用しても,平等の保障が実現されないからです。そして,「平等」とは,絶対的平等ではなく,相対的平等を示します。というのも,絶対的平等を貫くとかえって不都合をもたらしてしまうからです。また,保障根拠,すなわち,同一の状況の場合に均等に扱い,同一の状況でなければ違って扱うことにより真の公平が実現することを理由とすることもできます。

というわけで,法内容が相対的平等であれば平等権侵害とはならない,すなわち合理的理由に基づく合理的区別であれば違憲とならないことになります。

 別異取扱いが一段階目であるので,別異取扱いの認定をしておいてください。この記述をしていない人が意外と多いようです。

 

Ⅲ 別異取扱いに関する検討

 本問では,法32条1項ただし書1号の内容が平等権を侵害するとして違憲であるという原告の主張が考えられます。そのため,「法の下」と「平等」の双方を解釈しなければなりません。そして,問題は,法32条1項ただし書1号が,何と何を区別しているかということです。

 

1 当事者の主張

 原告としては,特別意味説を採用するか否かを問わず,固有の性質による区別,すなわち,後段列挙事由によった区別を主張したいところです。そうすると,32条1項ただし書1が,配偶者のうち,夫についてのみ「60歳以上」という制限を課していることから,妻と夫を区別していると主張することになるでしょう。というのも,妻と夫は「性別」に基づく区別ということになるからです。

 被告としては,法32条1項ただし書2号ないし4号や法37条1項各号が男女で区別していないことに着目して,性別による区別ではないと反論します。そして,被告としては,法32条1項ただし書1号は,妻と妻以外の遺族の区別にすぎず,性別による区別ではないと判断することになるでしょう。つまり,法32条1項ただし書は,妻を特別扱いしていることになります。

 

2 裁判所の認定

 本問は,第一審と控訴審最高裁で異なる判決をした事件を題材にしています。実は,この3つの裁判所で,何を区別したものかについて,判断が異なっています。

 第1審[4]は,「夫か妻かという性別に基づく区別であることは明らかである」と判示しています。つまり,「性別に基づく区別」と捉えています。控訴審[5]では,男性と女性の区別としているようですが,個別具体的検討において,男女の差というよりは,妻と夫の差という区別を重視しているように読めます。この違いは,目的との関連性の検討の際に微妙に検討する事項が異なってくるので,注意が必要です。しかし,最高裁[6]は,「地方公務員災害補償法32条1項ただし書の規定は,妻以外の遺族について一定の年齢に達していることを受給の要件としている」と述べていることから,妻とそれ以外の遺族の区別に焦点が当てられていると考えられます。このようになってしまうと,固有の性質としての性別による区別ではなくなってしまいますから,合憲に近づくことになります。

 いずれの見解をとるとしても,判断枠組みや個別具体的検討で違いが生じてくるはずですから,それぞれの見解によって,注意して検討してみてください。

 

Ⅳ 判断枠組みの定立―国籍法違憲判決と堀木訴訟判決

平等権に関する判例を俯瞰すると,14条後段の事由は,例示列挙にすぎないため,個別に検討していくことになります[7]。そのため,個別具体的検討をするためのスタンスとしての判断枠組みの定立が必要になります。

 

1 国籍法違憲判決における判例理論[8]

 国籍法違憲判決における判例理論は,「区別を生じさせることに合理的な理由があるか否か」についての判断枠組みの定立の参考になるものです。

⑴ 国籍法違憲判決の判例の射程

国籍法違憲判決の判示事項の1つは,「国籍法3条1項が,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子につき,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(準正のあった)場合に限り日本国籍の取得を認めていることによって国籍の取得に関する区別を生じさせていることと憲法14条1項」であり,憲法14条1項の法理判例ですが,その射程は,国籍法3条1項についての憲法判断が結論命題になりますから,その範囲にとどまります判例を正しくとらえると,判例の射程は及ばないということになります。

判例の射程が及ばなくとも,代替的事実があれば,同様の法的効果を生じさせることになるのでした。憲法判例は,まさにこれを判例理論レベルで考えるのがポイントです。つまり,国籍法違憲判決においては,「慎重に検討することが必要である」という厳格な審査基準を用いていますが,このような基準を本件でも用いることができるか,代替的事実があるかが問題となってきます。

⑵ 国籍法違憲判決の判例理論

 当該判決が「このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由がある否かについては、慎重に検討することが必要である」との比較的厳格な審査基準という結論をもたらすための「重要な事実」が何かを特定する必要があります。これが「事柄の性質」となり得る事情の特定ということです。

この論理(理由付けの部分。「このような事柄」の内容)を見てみると,「日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受けるうえで意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。」と述べています。これを分析してみると,前半部分でⓐ非侵害利益が「重要な法的地位」であること,後半部分でⓑ「自らの意思や努力によって変えることのできない……事柄」であること,を要素として,考慮し,厳格な審査基準を用いていると読めます。そうすると,ⓐとⓑの要素が判断枠組みの定立に重要な事実となります。

 本問でも,このⓐとⓑの要素があるかを検討することが,判例を参照しながらする検討ということです。

 

※次回は、堀木訴訟の射程を考えていきます!

検討編②→ https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/23/171603

 

[1] 駒村圭吾憲法判例のReverse Engineering」三色旗672号(2004)11頁。

[2] ここについて,原告の主張で書くのは疑問の余地があります。しかし,ここは前提として両者が認識していることなので,書いても書かなくてもいいと思いますが,「実質的平等」と「合理的区別」というキーワードは必要だと思います。

[3] 法内容のみならず,法適用と逆に書く人の答案が多くあったんですが,問題の所在が逆転しているので,間違いだと思います。また,問題の所在が生じない場合に展開する人がいますが,その必要はありません。

[4] 大阪地判平成25・11・25判時2216号122頁[平成25年度重要判例]。

[5]阪高判平成27・6・19判時2280号21頁[平成27年度重要判例]。

[6] 最3小判平成29・3・21判示2341号65頁[平成29年度重要判例

[7] 最大判昭和48・4・4刑集27巻3号265頁[Ⅰ-25](尊属殺重罰規定判決)で,例示列挙説に立つことが明示されています。

近時有力説として特別意味説があります。これは,後段列挙事由にあたる事項についての区別には,より厳格な審査基準が採用されるとするものです。この点,憲法で明文化されている以上はやはり意味を持たせるべきと考えているが,審査基準のための要素ⓐⓑを検討すれば,同じ結論に辿り着くことになると思います。

[8] 最大半平成20・6・4民集62巻6号1367頁[Ⅰ-26]