J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題5:検討編③~個別具体的検討~

Ⅳ 個別具体的検討-立法目的の変遷を中心に

 目的とは「なぜ両者を区別しているのか」という意味を表します。つまり,目的が「合理的な根拠」に基づいているかを審査しているのです[1]。緩やかな場合は,恣意的な目的でない一応の根拠があれば足りると考えられます。他方で,厳しく審査する場合は,立法事実が必要となってきます。なお,確認ですが,「合理的」といっても,これは必ずしも合理性の基準で用いられるものとは異なる可能性があります。どの程度の「合理的」なものが必要かを判断枠組みで審査していたのです。

 そして,手段とは「区別の基礎となっている事情は合理的なものか」という手段の関連性審査をもとに考えます。基本的には,関連性のみでいいのですが,尊属殺重罰規定判決では,相当性を判断しています。なお,意見が分かれているところですが,再婚禁止規定違憲判決[2]において「合理性の欠いた過剰な制約」と言っていることから,過剰性審査=相当性審査を行っていると考えられます。この必要性・相当性審査は厳格な場合に用いられていると考えられます。

 

1 当事者の主張

 遺族補償年金制度の目的は,「職員の死亡により扶養者を喪失した遺族のうち,一般に就労が困難であり,自活可能でないと判断される者に遺族補償年金を支給するとの目的」です。しかし,これは区別の目的ではありません。なぜ,妻と夫を分けたのかを答えなくてはいけません。〔参考資料3〕によれば,「日本型雇用慣行により,主として男性労働者を正社員として処遇していたため,その妻の多くが,就業について相当な困難を抱えていた。また,性別役割分担意識も相まって,妻は専業主婦として日常家事を分担しており(昭和55 年の時点で,専業主婦世帯は1114 万世帯,共働き世帯は614 万世帯であった),その結果,夫と死別したり,離婚することにより被扶養利益を喪失した母子世帯の所得保障を行う必要性は高かった。」という社会事情がありました。簡単にまとめると,女性の場合,男性と比べて,就業の機会が非常に限られている状況において,夫の死別により妻は被扶養利益を失い財政難に陥るのが一般的であり,これを保護する目的であったということになります。子の目的については,いずれの判断枠組みであっても,その程度は異なりますが,合理性が認められると思います。

 問題は,目的と区別との関連性です。目的の立法事実の価値が変遷により消滅したか否かというものが大きくかかわってきます。仮に,中間審査レベル以上の判断枠組みであれば,立法事実に基づく根拠が必要であると考えられるからです。

 原告としては,ⓐ性別役割分担意識が希薄化し,女性の社会進出が進んだこと,ⓑ雇用者の共働き世帯が専業主婦世帯を上回ったことを理由に,女性を保護すべき合理的根拠がないという主張をします。ただ,むしろ,この事実を指摘した上で,「男性を女性と同程度に保護しないこと」は生計自律能力がない者を保護するという遺族補償年金制度の目的との関連性がない,という主張もすべきです。なので,ⓐⓑに加えて,ⓒ男性の非正規雇用は増加しており,社会保障制度においても,男性が正規職員として安定的に就業しているという前提は見直さざるを得なくなっていること,ⓓ平成10年以降は男性が女性より完全失業率が高く,平成22年には過去最大となっていること,という事実も指摘すべきです。

 被告としては,ⓔ女性の方が,男性に比べて,依然として賃金が低く,非正規雇用の割合が多いなど,就労形態や獲得賃金等について不利な状況にあるという事実を指摘し,いまだ区別の合理性があると反論していきます。

 もっとも,「母子家庭においても,父子家庭と比較すると収入が劣るものの,84.5%が就業できていることなどから,近年は,男女間の就業形態や収入の差は,あくまでも相対的なものであるとの指摘もある」という事実から,被告の反論は妥当ではないとも思われます。

 

2 裁判所の判断

 第1審では,「本件区別の立法の基礎とされた社会状況については,その後,大きく変化しており」と認め,配偶者の性別において受給権の有無を分けるような差別的取扱いはもはや立法目的との間に合理的関連性を有しないというべきであ」ると判断しています。つまり,第1審は,不合理な差別的取扱いとして違憲・無効であるという判断をしました。

 控訴審は,立法事実の変遷を認めながらも,「夫については年齢を問わずに『一般に独力で成形を維持することが困難である』とは認められないとして,『一般に独力で生計を維持することが困難である』と認められる一定の年齢に該当する場合に遺族補償年金を受給できるものとし,遺族補償年金の受給要件につき本件区別を設けることは合理性を欠くとはいえない」と判断しています。

 第1審と控訴審の違いは,立法事実の変遷をめぐってです。第1審は,立法当時から見て今日の社会的状況は変化しており,専業主婦世帯ではなく共働き世帯が一般的な家庭モデルになっているのだから,もはや妻と夫の受給権をカテゴリカルに区別することは正当化できないと考えています。対して,控訴審は,男女の労働力率,非正規雇用率,賃金額,専業主婦と専業主夫の人数を統計的に比較し,妻を失った夫よりも夫を失った妻の方が,今日でも『独立で生計を維持することができなくなる可能性』が高いと評価して,妻と夫の遺族補償年金の受給要件に区別があることも正当化できると考えています。

 では,最高裁はどのように判断したのでしょうか。最高裁は,下級審の立法事実と比較すると非常に淡泊です。「男女間における生産年齢人口に占める労働力人口の割合の違い,平均的な賃金額の格差及び一般的な雇用形態の違い等からうかがえる妻の置かれている社会的状況にかんがみ,妻について一定の年齢に達していることを受給の要件としないことは,上告人に対する不支給処分が行われた当時においても合理的な理由を欠くものということはできない」としています。区別の合理性を根拠づける「社会的状況」はあったと認識していることは確かです。

 

Ⅴ 結論

 いずれの結論でもいいのですが,論理的な一貫性が認められることが重要です。別異取扱いが何と何か,判断枠組みの定立がどのようなものなのか,目的と区別の適合性が立法事実との変遷でどのように考えるべきなのか,という3点が大きな課題になります。

 憲法判例の射程とは,憲法に関する裁判所の考え方という意味での判例理論が他の事案に適用できるかを考える試みというものでした。そして,本問を通してみてきたように,憲法判例の適用の有無において最も重要なのは,判断枠組みの定立なのです。判断枠組みが決まってしまえば,あとは個別具体的検討をするだけなので,勝敗を大きく分けるのは判断枠組みの定立だと思っています。まずは,最高裁が,どのような要素に着目して,どのような判断枠組みを定立しているのか,どの事実に着目して違憲と判断したのかを分析することが大事です。

Fin

 

※次回は、中央ロー2019年度の問題を素材に、選挙権と選挙制度について検討出来たらと思っています。

 

[1] 平等の問題に関する判例は,目的と手段とを明確に区別するものとしないものがある。目的と手段とにとりあえずは区別して検討すればよいが,明確に区別できない場合もある。本問の区別が難しい類型ともとれる。いずれにしても,「合理的な根拠」に基づくものかどうかを審査することになる。

[2] 最大判平成27・12・16民集69巻8号2427頁。