J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題7:検討編④~個別具体的検討~

Ⅵ 個別具体的検討

1 目的審査

 目的審査においては、まず目的を認定することです。目的の認定もせずに、重要だとか言うことはできません。受験生の中には、特例法の趣旨=特例法の目的であるとして、第1条を抜き出した人が多数いるようです。しかし、特例法第1条は「この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。」と宣言しているだけで、目的ではありません。そもそも、ここで検討すべき目的は特例法の目的ではなく、特例法3条1項4号の目的です。二重の意味で誤っています。

 さて、生殖機能喪失要件(特例法3条1項4号)の目的は問題文のどこにも示されていません。これは問題作成者があえて行ったことです。ここをちゃんと考えて、示せることが求められているのです。

 生殖機能喪失要件の目的は、一般的に、元の性別の生殖能力に基づいて子が誕生した場合には、現行の法体系で対応できないところも少ないから、身分法秩序に混乱を生じさせかねないため、こうした弊害を避けるという目的(混乱防止)であるとされています。これは現場で考えるしかありません。なぜ、生殖機能喪失要件を設けたのか、裏を返せば、このような要件がない場合、生殖機能を持った同一性障害者から起きる問題はどこにあるのかということを考えるのです。

 この目的が重要であるというためには、憲法上の他の人権の保護(もしくは、それと同等の利益の保護)に値することを示す必要があります[1]。上記のような混乱は、生まれてくる子どもの法的権利に直結するものであり、子どもの平穏な生活(憲法13条後段)を保護するものといえます。また、身分法制や家族法制を揺るがすものであり、憲法24条2により保護しようとする社会制度の根幹にかかわるものです。そのため、重要な目的といえます。

 このような説得的な論証ができなければ、目的審査をしたとはいえません。おそらく、この時点でほとんどすべての受験生が脱落していることだと思います。

 

2 手段審査

 手段審査としては、関連性と必要性(相当性)を見ていくことになります[2]。中間審査以上であれば、関連性に確実な根拠が必要にあってきます。つまり、観念上の想定にすぎない場合は、違憲となり得ます。

 上記目的の手段として、生殖機能喪失要件を設けています。確かに、生殖機能がなくなれば子どもが生まれることはなくなり、混乱は生じないといえます。しかし、そもそも、生殖機能を喪失させなくても、子どもが生まれる可能性はかなり低いと思います。というのも、Xのように男性と自覚している人は身体的に女性の人と交際をするわけであり、子どもが生物学的に生じることは考えにくいからです。とはいっても、現代の技術においては、そのリスクは十分にある(確実な根拠のあるリスク)と考えることも可能です。

 また、生殖機能の喪失は過剰でないかという点で検討の余地があるでしょう。Xのように、ホルモン治療等により生殖器を含めた身体的特徴を変えることは可能です。身体的特徴が変化されていれば、子どもの発生は考えにくいです(現に未成年の子がいないことが3号要件で求められていることからもいえます。)。他方で、そもそも、このような身体的特徴をもって性別を分けること自体が不合理であるとも考えられると思います。生殖機能の完全な喪失まで必要なのかについて考えてみてください。

 いずれにしても、説得的な論証を行った上で、明確な結論を示せていれば問題ありません。

 

Ⅶ 注意点

 慶應ローの入試においては、入口の特定が一番重要です。ここで誤ってしまうと、大変なことになってしまいます。また、慶應ローの入試では、正確な判例の理解を問う問題(判例型)参考にすべき判例がなく、説得的な論証が求められる問題(説得論証型)が出題されます。本問は後者であり、いかに説得的な論証ができたかどうかがポイントになっています。そして、こういう問題は、憲法の基本となる思考の本質的な理解がちゃんとできているかを測るのに非常に有効な問題です。

 さて、最後に、設問の問い方についてですが、本問では、「法律家甲であるとした場合、……どのような意見を述べるか。」と問われ、さらに、「特例法のどの部分が、いかなる憲法上の権利との関係で門ぢあになり得るのかを明確にした上で」と、入口の特定をしっかりと示せと言った上で、「想定される反論を踏まえて論じなさい」とされています。この「想定される反論を踏まえて」というのは、主張反論私見型にせよという指示ではなく、近時のリーガルオピニオン型の問い方です。主張反論私見型で書かれた答案に対しては、印象が悪く、設問の意味すらわかっていないのかと採点者に嘆かれます。ここで想定される論証の形は、「○○と考える。これに対し、△△との反論が考えられる。この点については、◇◇と考える」という風な解答が想定されています。

 自分の書ける形ではなく、設問に沿った解答をするようにしましょう。

Fin

 

※各段階に注意しなければならない点があり、非常によくできた問題です。慶應ローの問題はどの科目も考えなければならないポイントがあります。この問題を一度書いてみて、この記事を読んで、もう一度書いてみるといいと思います。連絡くれれば、添削するかもしれません…。

※明日は、intervalとして、ロー入試のステメンの話でもしようかなと思います。

 

[1] 目的が重要とは、どのような評価ができれば重要といえるかについては明確な基準を設定することは難しいとされています。とりあえずは、他の人権の保護の規定であることが示されれば足りると考えます。なお、やむを得ない利益というためには、さらに緊急性・緊迫性を基礎づける立法事実が必要であると考えます。

[2] 必要性と相当性を分ける思考もあります。分ける考え方の場合は、必要性とはなにか、相当性とはなにかを理解しておくべきです。なお、個人的には、そのような手段が必要かという観点から検討すれば、それだけで相当な手段かの検討もできていると思います(過剰な手段は必要ないってことになります。)。