J-Law°

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検討課題10:検討編②~知識の整理:財産権~

Ⅳ 知識の整理―財産権

 本条例3条1項は、所有権に基づく処分といての転売を禁止しています。そのため、財産権(29条1項、2項)との関係で問題になります。財産権は、国家権力に先行して存在しているわけではなく、国家によって制度の形成がなされて初めてその輪郭が与えられる権利です。それでは、財産権が問題となる場合、憲法上の権利として、どのように語ればいいのでしょうか。この論点は、憲法学でも議論が続いており、論証の形式が最も安定しない領域ともいえます。判例と学説から自らの「型」を再構成するしかありません。そこで、まずは、財産権の基本的な知識の整理という形で確認していきましょう。

 

1 財産権の入口の特定

 財産権においてもいわゆる三段階審査基準が適用できるでしょうか。三段階審査基準は「防御権」の際に主張できるものです。財産権は、29条2項「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」としていることから、法律により形成される権利です。となると、法律によって財産権の内容は変更することができ、「防御権」とは簡単に言えないことになります。では、どのように国家の攻撃をとらえ、どうやって攻撃を回避すればいいのでしょうか。

 29条1項の保障範囲について、通説は①個人の現に有する具体的な財産上の権利の保障と②個人が財産権を享有しうる法制度、つまり私有財産制という制度保障の2つの側面を持つとしています。この観点から攻めてみましょう。

 ①の観点からは、既に存在している既得権としての財産権が29条1項により保障されていることから、事後的な財産権の内容変更による既得権侵害を理由に攻める方法です[1]。これは、国有農地特措法事件[2]が例に挙げられます。

 ②の観点からは、単独所有の原則のような根本的なベースラインからの乖離を理由とした法制度形成に対する攻撃です。より簡単にいうのであれば、絶対的に守らなければならない前提となる制度に反する制度形成をするな!との主張です。これは、森林法共有林事件[3]証券取引法判決[4]が例に挙げられます。

 これらの2つの観点をもう少し詳しく述べていきます。

 

2 既得権侵害の事案(①の観点からの主張)

 既得権の場合は、すでに存在している権利なので、防御権と同様の考え方ができます。

⑴ 憲法上の権利の制約

 まず、既得権が存在しているか(憲法上の権利)、そして、制約があるのかを検討していく必要があります[5]。国有農地特措法事件では、旧所有者は買収農地の売払いを受けることができた(つまり、売渡請求権を有している)のですが、請求をした後に、法改正がなされた事案です。そのため、既得権の変更という点で制約が認められています。

⑵ 判断枠組みの定立[6]

 次に、権利の重要性×制約の重大性×裁量による判断枠組みの定立の視点で見てみましょう。国有農地特措法事件では、「右の変更が公共の福祉に適合するようにされたものであるかどうかは、いったん定められた法律に基づく財産権の性質その内容を変更する程度、及びこれを変更することによって保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって、判断すべきである」として、個別具体的な検討をしています。判例の個別具体的検討部分を参照しながら、どのような観点から判断枠組みを定立しているのか、分析する必要があります。

⒜ 権利の重要性

 財産権の保障根拠は、①個人が自律した生を全うするためには、個人の物的資源の享有が必要である点②社会の複雑化に応じ、私人の予測可能性を確保して行動の自由を保障する点にあります。

 ①との関係はわかりやすいと思います。つまり、個人の生活にどれだけ重要な権利なのかという視点から検討すればいいのです。

 ②の点について、どのように検討すればよいのでしょうか。予測可能性を確立させるためには、次の2つの要素が関わっています。

 1つ目は、①どれくらい長い年月当該既得権を所持していたのかという点です。長ければ長いほどそれがあるべきものだと人は思って行動します。なので、保護される必要性は上がります。2つ目は、②どの程度具体的な権利であったかという点です。国有農地特措法事件判決では「右の権利は当該農地について既に成立した売買契約に基づく権利ではなくて、その契約が成立するためにはさらに国の売払いの意思表示又はこれに代わる裁判を必要とするような権利であり」と言っています。これは売買契約だけでは未だ抽象的な権利にすぎず、国の意思表示があって初めて具体的な権利となるということです。このように、具体性からの検討が必要です。

⒝ 制約の重大性

 制約の重大性については、判例は「その権利が害されるといっても、それは売払いを求める権利自体が剥奪されるようなものではなく、権利の内容である売払いの対価が旧所有者の不利益に変更されるにとどまるものであって」として、価値の一部の変更にすぎないといっています。この場合、制約は必ずしも重大なものではないということになります。

 権利を剥奪するものなのか、変更にとどまるのかという点で見ていくとよいでしょう。

⒞ 裁量

 裁量については、財産権が法律によって内容が確定するという29条2項を根拠に認められます。証券取引法事件では、「財産権は、それ自体に内在する制約がある外、その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって加えられる規制により制約を受けるものである」とし、経済的自由権と同視できる側面があるとしています。規制目的二分論については、証券取引法事件では適用がされていません。しかし、これを考慮して、審査基準を考えることは可能だと思います。

これらの事情から、理由とともに基準定立をしていきます。あとは、個別具体的検討をしていくことになります。

 

3 制度形成の事案(②の観点からの主張)

 この事案は、森林法共有林事件の判決を手掛かりに検討していきましょう。

⑴ 憲法上の制度の制約

判例は、「共有分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至ったものである」とし、その後に財産権の制限の該当性論証を行っているため、この点が理由づけになるでしょう。この部分を分析すると、私有財産制度の本質である単独所有の原則という法制度を害することになるというのが理由の核心です。

 となると、まず29条1項が私有財産制度を保障していることを述べ、原則となる制度を示す必要があります。例えば、森林法共有林事件であれば、「29条1項は私有財産制度を保障しているところ、個別財産上の権利だけでなく、法制度としての単独所有の原則を保障している。そして、単独所有の原則への移行を可能ならしめるから、共有物分割請求権も財産権として保障される。」といった感じです。この原則となる制度をベースラインとして考えます。

 次に、この原則形態が法令により形成された制度により制約されていることを示します。「本件法令は、共有分割請求権を制約しているため、財産権の制限にあたる」といったように、示すことで、憲法上の権利の制約のレベルが終わります。

⑵ 判断枠組みの定立

 判例は、「財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、右のとおり立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受けるものである」とし、経済的自由権と同視できる側面があるとしています。続けて、「財産権の種類、性質等が多種多様であり、また財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうる」として、財産権の多様性と規制目的の多様性から、公共の福祉に反するか否かを「規制目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度を比較考量して決すべき」との規範を定立している。もはやここまででは、具体的な判断枠組みを定立することはできない。

 しかし、そのあとに、「共有分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至ったものである」とし、続けて、制約を認定していることから、この部分は本来、権利の重要性と制約の重大性を認定したと考えられる。

 どういうことかというと、共有分割請求権の性質を考えることで、財産権として保障されている共有分割制度の重要性を検討しています。そして、森林法では請求そのものができなくなっていることから、制度への制約が重大ということです。少し言い方を変えれば、制約の重大性は、原則形態との違いがどれだけのものか、ということを検討しているとも言えます。

 これらの要素を検討して、判断枠組みを定立し、個別具体的な検討をしていきましょう。

 

※百選番号は第6版のものですので、第7版と多少ずれています。

※今回の知識の整理を踏まえて、一度考えてみましょう。この問題は考えることが大切ですから。検討編③へ続く!

https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/15/004342

 

[1] より具体的にいうと、ⓐ法改正そのものが「公共の福祉に適合」していないとする違憲性とⓑ法改正により財産権が侵害されたとする違憲性の主張が考えられます。ただ、ⓐのようなことは、よっぽど呆れた改正でない限りあり得ないと思います。なので、ⓑを検討していくことになります。

[2] 最大判昭和53・7・12民集32巻5号946頁[Ⅰ-104]

[3] 最大判昭和62・4・22民集41巻3号408頁[Ⅰ-101]

[4] 最大判平成14・2・13民集56巻2号331頁[Ⅰ-102]

[5] 最大判昭和38・6・26刑集17巻5号521頁[Ⅰ-103](奈良県ため池条例事件)では、ため池の堤とうを使用する財産上の権利が保障されるかについて、判旨の文言が微妙な言い方をしています。これは当時の有力説が、人権として保障されるかの問題と保障される人権の規制が許されるかの問題を同じものと考えていたからとされます。判旨の前半部分(「すなわち」の前まで)が論証部分ですから、財産権として保障されることを前提としていると考えられます。その上で、制約の目的の必要性と手段の合理性(受忍すべきもの)から、本条例による制約は違憲とならないと判断したと考えられます。

[6] すごくざっくりいえば、29条1項vs29条2項のバランスを見ます。