検討課題12:検討編③~私見:人格的生存に不可欠でない自由~
Ⅲ 私見の展開(設問2)
問題形式に最大の注意を払うべきです。すなわち、「設問1で述べられた主張の当否について、あなた自身の見解を論じなさい」という訊き方であることから、被告の反論を指摘する必要はありません。主張・反論・私見型で各答案は、減点対象となります。設問にちゃんと答えましょう。
1 憲法上の権利の制約
⑴ 憲法上の権利?
最大の論点は、“個人の情報等を提出しないで山登りをする自由”が憲法上の権利として保障されるか否かです。
まず、22条1項との関係で考えると、「移動」とは、生活拠点を移すことです。そのため、定義にあてはまることはありません。そこで、原告では、移動の自由の3つの性質のうち2つの性質があてはまることを主張することにしました。そのため、論じるべきは、経済的自由としての側面が必要かどうかという点です。これが必要であると考える場合は、22条1項により保障されないことになります。憲法が22条1項という経済的自由権の権利として設定していることからして、経済的側面が主たる要素であり、その他の要素は派生的な性質と考えるのが自然だと思います。
次に、包括的人権として保障される余地があるかを検討することになります(22条1項で出発しても、この時点で13条後段に触れざるを得ないと思います。)。13条後段との関係で考えると、人格的生存に不可欠とまで断定することは難しいでしょう。
採点者の側の見解では、条文上の根拠に基づいてギリギリいける可能性もあると考えているようですが、憲法上の権利として保障されないとして比例原則に流すのが説得的な論証であると考えているようです。そのため、無理せず、保障されないと言い切っていいのです。
⑵ 知識の整理―人格的生存に不可欠でない自由
人格的生存に不可欠といえず、憲法により保障されない利益については、必ず合憲となるとは判例は言っていません。そこで、判例がどのような立場を取っているのかを整理してみることにします。
賭博開帳事件[1]では、賭博の自由が憲法上で保障されるか否かを保留したまま、当該規定の合理性についての判断をしています。未決拘留者喫煙禁止事件[2]では、「基本的人権の内容」を比較衡量の項目に挙げているが、検討にあたっては、「喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても」と述べるにとどまります。これは、喫煙の自由が憲法上の保障に含まれるかの検討をせずに、正当化の検討をしていると理解することができます。どぶろく訴訟[3]では、酒造りの自由が憲法13条によって保障される行為であるかについて検討せずに、立法府の裁量権の逸脱濫用を検討しています。わいせつ物単純所持目的輸入規制事件[4]やストーカー規制法合憲判決[5]でも、同様です。
このように判例をみると、憲法違反か否かの審査を行っています。その背後には、公権力が個人の自由・利益を制限する際には法律の根拠が必要であり、また制限するにしても、平等原則や比例原則に違反してはならないといった、国家に対する客観的な統制が存在しています。この理論の条文上の根拠としては、「違憲な強制を受けない自由」が憲法13条で保障されるという考え方ができます。なお、このような権利として位置づけなくても、客観法であるすれば、そのまま根拠とすることができます。
以上を踏まえて、判例の書かれていない部分を説明すると、次のようになります[6]。 「確かに、△△は憲法13条の保障が直接に及ぶ行為とはいえないかもしれない。しかし、だからといって国家権力が合理的理由もなく恣意的に規制してもよいわけではない。そこで、客観的統制との関係で、規制の目的と手段に合理性がなお求められることになる(13条)。」と論証することになるでしょう。
2 判断枠組みの定立
上記を受けて、比較衡量等により規制目的と手段の合理性を検討することになります。比較衡量の対象は、不利益と利益の均衡です。そこで、まずは、不利益側(利益の重要性×制約の重大性)を検討し、基準を定立した上で、公益側を検討するといつもの流れで検討出来ます。この際に注意しなければならないのは、憲法上の権利ではないことから、厳格に判断することはできないということです。このことを踏まえて、適切な判断枠組みを定立する必要があります。いつもの比較衡量の思考ができていれば、ビビることはありません。
3 個別具体的検討
上記判断枠組みへの個別具体的検討という形で、利益側を見ていきます。この利益に相当するものが、日頃の目的手段審査における目的に相当する公益です。この点について、公益がどのようなものかを明確に認定し、それについて評価を加えることになります。
そして、手段審査に相当するのが、関連性・相当性の審査です。不利益と利益の釣り合いにおいて、不利益が大きい場合は、相当性を欠くことになります。このことを意識して、説得的に論証を展開する必要があります。
4 結論および注意点
上記の検討を踏まえて、自己の見解を示せば問題ありません。本問のような届出制は合憲となると考えた人が多いと思います。注意点としては、憲法の検討順番を誤らないことはもちろんのことですが、踏み込んだ検討をし、説得的な論証をしていることです。やはり慶應ローの憲法は一筋縄ではいきませんね。
Fin
[1] 最大判昭和25・11・22刑集4巻11号2380頁[Ⅰ-15]
[2] 最大判昭和45・9・16民集24巻10号1410頁[Ⅰ-A4]
[3] 最1小判平成元・12・14刑集43巻13号841頁[Ⅰ-21]