J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題13:検討編~本問の検討~

1 入口の特定:原告の主張

 Xは、同意なく旧慣使用権を廃止したことが憲法29条1項、2項違反との主張をしている。XはY市を相手に、住民訴訟地方自治法242条の2第1項1号、2号)を提起し、使用権の廃止決定の取り消しを主張していきます。この中で、財産権(29条1項)が侵害され、違憲であるとの主張をするでしょう。

 そのほかにも、旧慣使用権の確認の訴え(実質的当事者訴訟)を行うか、国家賠償請求を行うと考えられます。この訴訟の中で、財産権侵害により違憲という旨の主張をしていくことができそうです。

 財産権については、検討課題10で知識の整理をしています(https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/14/190223)。この知識の整理を見直した上で、本問の検討に入るといいです。

 

2 憲法上の権利の制約

 本件は、今まであった旧慣使用権が廃止された事案です。とすると、これは既得権侵害事案ということになります。

 憲法29条1項は、法律によって形成された財産の使用・収益・処分権能を「財産権」として保障され、法律によって許容されてきた具体的な個人の現に有する財産上の権利を法律の内容変更によって遡及的に剥奪することは財産権を制約する、というのが一般論でした。本件においては、明治時代の町村制の実施とともにXに認められていた旧慣使用権が廃止されています。旧慣使用権は、XがO山の入会地を使用し、農業を営むこと認める権利であるため、「財産権」により保障されています。そして、その廃止は財産権の制約であるといえます。

 一点、発展的な観点ですが、29条1項の保障は近代社会における財産制度に基づいています。これは森林法共有林事件の判旨にあった点です。とすると、29条1項の対象としているのは近代市民社会における制度に基づく具体的な権利でしょう。そうなると、単独所有制とは異なる入会的「総有」は前近代性を有しているところ、近代社会の制度に基づく具体的な権利とは言えないように思われます。この点をどう乗り切るのがいいでしょうか。完全なる私見を述べるとすると、具体的な権利として成立した経緯は、行政側の都合です。そして、民法上の権利であり、かつ、単独所有形態への変更が可能な状態であることなども考えると、近代市民社会に適合する形で当時の状態を保持したと考えることができます。そうすると、近代市民社会に適合する形で「由緒正しい」権利とも考えることができると思います。ここは、各自で検討してみてください。

 

3 判断枠組みの定立

 財産権は文言上で立法府の裁量の余地を認めているほか、社会全体の利益を図る必要性があるため、立法府の裁量が認められています。もっとも、「公共の福祉」に適合するような立法措置を採らなければなりません。そこで、「右の変更が公共の福祉に適合するようにされたものであるかどうかは、いったん定められた法律に基づく財産権の性質その内容を変更する程度、及びこれを変更することによって保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうか」を検討していきます。

権利の重要性としては、Xの持っていた既得権の重さを考えます。このとき、保障根拠にも触れながら論じるとよいです。本件の権利は、明治時代から認められ、先祖代々受け継がれてきた権利であり、長期間にわたり認められていました。そのため、これに基づく長期的な予測により活動していたと言えます。また、Xらの農業や日常生活を支える者であり、Xの物的資源の享有に不可欠ともいえ、具体的な権利であると言えそうです。そのため、権利としては重要なものと考えることができます。

 制約としては、剥奪or変更と言われれば、一方的な剥奪といえます。制約の重大性は大きいです。

 このような観点から、具体的な基準(厳格な合理性の基準or合理性の基準)を定立し、個別具体的検討をしていきたいと思います。

 

4 個別具体的検討

 目的は何でしょうか。レジャー施設の建設による経済的な発展ですね。これが重要なのか(正当なのか)の検討を忘れないようにしましょう。

 手段として、「廃止」を選んでいます。本当に廃止することで、経済的な発展ができるのか(適合性)、「変更」ではなく「廃止」でなければならなかったのか(必要性)を中心に検討することになるでしょう。本件では、一部が重なっただけで廃止しているという事実をどのように評価するかがポイントになると思います。廃止決定までの手続きなどにも考慮すると、より具体的な検討になると思います。

Fin