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検討課題14:検討編②~本問の検討~

 本問は、最2小決平成26・8・19判時2237号28頁[平成26年度重判12](逃亡犯罪引渡法35条事件)を題材としました。まずは、判旨を見た上で、本問との違いを確認し、解説を加えていくことにしましょう。

 

Ⅰ 判例の分析

1 平成26年決定の判旨

「逃亡犯罪人引渡法14条1項に基づく逃亡犯罪人の引渡命令は,東京高等裁判所において,同法9条に従い逃亡犯罪人及びこれを補佐する弁護士に意見を述べる機会や所要の証人尋問等の機会を与えて引渡しの可否に係る司法審査が行われ,これを経た上で,引渡しをすることができる場合に該当する旨の同法10条1項3号の決定がされた場合に,これを受けて,法務大臣において引渡しを相当と認めるときに上記決定の司法判断を前提とする行政処分として発するものである。このような一連の手続の構造等を踏まえ,当該処分により制限を受ける逃亡犯罪人の権利利益の内容,性質,制限の程度,当該処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量すれば同法35条1項の規定が,同法14条1項に基づく逃亡犯罪人の引渡命令につき,同法に基づく他の処分と同様に行政手続法第3章の規定の適用を除外し,上記命令の発令手続において改めて当該逃亡犯罪人に弁明の機会を与えるものとまではしていないことは,上記の手続全体からみて逃亡犯罪人の手続保障に欠けるものとはいえず,憲法31条の法意に反するものということはできない。このことは,当裁判所大法廷判例最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁)の趣旨に徴して明らかであり,所論は理由がない。」

 

2 判旨の分析と本問の関係

 判旨によれば、法令違憲(Xの主張①)は認められないというのが結論となります。

 この判例は、最大判平成4・7・1民集46巻5号437頁[Ⅱ-109](成田新法事件)を参照していますが、総合較量にあたって、「手続の構造」を明示している点で、完全に一致するものではありません。この点がどういう意味を生じさせるかについては、知識の整理で見ましたので、確認してください(注7参照。)。

 さて、本問では、Xの主張②があります。平成26年決定では検討がなされていません[1]。Xの主張②は、適用違憲についての主張です。適正手続についての適用違憲は、過去の判例を俯瞰しても見当たりませんが、その可能性はあるとされています。そこで、ここでは、判例に先取りして検討していきたいと思います。やや発展的な内容ですので、法令違憲がまず、できることが重要です。

 

Ⅱ Xの主張①-法令違憲

 とはいっても、法令違憲についても簡単に確認しておきましょう。

 

1 憲法31条の適用に関する規範

 憲法31条は、刑事手続のみを対象とするものではなく、行政手続に及びます。ただ、行政手続は、刑事手続きと性質上差異があり、かつ多種多様であることから、事前手続保障の必要性は、権利と公益の較量によって判断されるべきである、と成田新法事件の判旨を指摘しましょう。

 その上で、「一連の手続の構造等を踏まえ,権利利益の内容,性質,制限の程度,当該処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量」するという記述をし、本判決を利用します。なお、「一連の手続の構造」を考慮することについて、成田新法事件との矛盾しないこと(本件は刑事手続であり、典型的な行政手続ではないことなど)を指摘すると評価はかなり高いと思いますが、そこまでは書かなくても十分だと思います。

 

2 個別具体的検討

 東京高判の決定は、「抗告人の主張に係る弁明の機会の時間的な可能性は,逃亡犯罪人引渡しの手続の性質・内容,逃亡犯罪人の権利利益保護との関係において極めて重要な引渡制限事由についての判断が,東京高等裁判所において逃亡犯罪人の手続き保障をも図った上で審査を経ることとされていること,その後の法務大臣の引渡しの判断が,請求国に対する外交的配慮,国内の法秩序維持上の必要性等の諸要素を総合考慮してされるべき高度に政治的裁量的なものであることなど,原決定の説示する諸事情に照らすと,前記総合較量に基づく判断を左右するに足りるものとはいえない。また,法務大臣に対する請願等の政治的要請手段の存在や引渡しの相当性に関する法務大臣の判断の高度の政治性,裁量性は,前記総合較量に係る諸事情の一つということができるから,この点に関する抗告人の主張も,採用することができない。」としています。

 ポイントは、迅速性が要求されていることと法務大臣に高度の政治性があることです。逃亡犯罪人の引渡しは外交問題ですから、公益性は非常に高いものにならざるを得ません。そして、Xには、東京高裁による審査と法務大臣による審査という二段階の審査があることから、Xの強制引渡という不利益も小さくならざるを得ません。特に迅速性が要求される引渡しにおいては、このような手続き以上の手続きを経ることは難しいと思われます。そのため、比較衡量の結果、公益性が上回ってしまうことになります。

 

 

Ⅲ 【発展】Xの主張②-適用違憲

 本問をやや難しくしてしまうのは、適用違憲の部分です。同様の規範で、権利と公益の比較衡量をするのですが、本件の特殊事情を込みで検討することになります。

 

1 適用違憲の可否

 そもそも、従来の判例が検討しなかった適用違憲が認められるのでしょうか。先例としての意義が高い成田新法事件では、判示されていません。まず、ここから考えていきましょう。

 成田新法事件で適用違憲を検討しなかった理由は、その事案の特殊性にあります。すなわち、成田新法は緊急措置法であり、成田空港周辺における「暴力主義的破壊活動」のみを規制対象としています。そのため、当該法の適用事例において、その利益状況はすべて類似しているのです。適用が異なる事例を考えることが難しいのです。

 これを比べれば、本問は、個々の事件における具体的事情を考慮することが可能ですので、適用違憲の可能性があります。前掲・平成26年決定の判旨でも、「当該手続」や「当該処分」という言葉を使っています。そのため、適用違憲が重要となることを、示唆しているのではないかと言われています。

 これは、第一次家永教科書訴訟[2]でも見られました。しかし、適用違憲を審査しない傾向にあります。どうやら、最高裁は、適用違憲を例外的なものと位置付けているみたいです。というのも、適用される事例が限定されると、行政手続の円滑の運営を害してしまうことになるからです。処分がしにくくならないように慎重になっているということです。

 

2 本問における検討

 本問では、適用違憲の主張がなされていますので、検討せざるを得ないと考えられます。Xの個人的事情があるので、法35条の適用がなされないのではないかという問題ですね(Xの個人的事情を考慮して本件引渡命令をすべきであるという主張とは違います。)。

 かかる個人的事情は、東京高裁の審査対象ではありません。そのため、事前手続はないことになります。しかし、法務大臣の最終判断において条約の限定事由を考慮することは予定されています。このような手続の構造において、権利と公益を較量してみると、公益性が優越することになり、法35条1項を適用させる必要性がないとはいえないと思います。

 よって、この主張②は、認められない可能性が高いでしょう。とにかく、Xの特殊事情は、法務大臣が考慮することが可能です。ここがXの主張の最大のウィークポイントだと思います(法務大臣の段階で手続きが保障されているとみることができてしまうからです。)。

 Xはどうすればいいのか。法務大臣裁量権の逸脱・濫用における考慮不尽等として争うことは可能でしょう。行政法の領域の行政裁量として争うのが適切であると考えます。

Fin

 

 

[1] 一審(東京地判平成26・8・11)ではX固有の事情について裁量権の逸脱濫用を検討した部分があるが、いずれも該当するような事情がないとして、認められていない。

[2] 最3小判平成5・3・16民集47巻5号3483頁[Ⅰ-88]