J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題17:検討編①~規制①の前半~

※今回から問題の検討に入りますが、本ブログは議論のもととなるものを提供するだけですから、これがすべて「正解」だとは思いません。また、批判もあると思います。そのような意見を仲間とぶつけ合いながら、自らを高め合ってください!

Ⅰ 問題文の分析

 出題形式については、近年の形式に沿ったものです。昨年度と違って、なにがどこに書いてあるかはかなり明確になりました。量としても3頁であり、平均的な問題量といえると思います。設問は、やや表現の仕方が違いますが、例年と同じことを書けばいいという理解でいいでしょう。

 さて、中身に入っていきますが、規制①と規制②の2つがあり、それぞれについて憲法適合性を検討すればいいということでした。規制①と規制②の各事情については、かなりわかりやすく区別されています(会話文では、「ところで」で分かれています。)。

 そして、3頁最後のXの発言から検討しなければならないことが明確に示されています。規制①については、 「これまで高速専業だった乗合バス事業者」の意見があり、“高速専業をする乗合バス事業者”を主体に検討せよという誘導になっています。また、懸念や疑問という形で法案に対する反論が書かれています。規制②については、「他府県ナンバーの自家用車の運転手」の意見があり、“特定区域外の自家用車の運転手”を主体として想定していると考えられます。次の文では、手段が目的を達成できないという指摘があり、手段審査でこの意見に触れないわけにはいきません。

 問題文を丁寧に読めば、検討すべき事項は明確であり、検討してほしいことを把握することは比較的容易です。この問題の難しさは、“短い問題文の中にどちらともとれてしまうような事情”が多くあるという点です。この事情をどのように評価するかによって、審査密度が変わってきます。ここが難しいポイントですが、各論の知識を踏まえたうえで、総論的思考を展開すれば、なんとかなります。一緒に検討していきましょう。

 

Ⅱ 規制①について

1 入口の特定

 まずは、入口の特定、すなわち違憲対象の選択、具体的自由の設定、権利・条文の選択を押さえておきましょう(『読み解く合格思考憲法〔改訂版〕』18頁(以下書籍名は省略し、参照する頁数を示します。))。

 “高速専業をする乗合バス事業者”の不満は、生活路線バスに参入しないと運航できないのはおかしいというものです。

 法案における規制①は、3-1が根拠となります。ただし、問題文の“高速専業をする乗合バス事業者”の懸念や疑問からすると、第4も併せて考えるのがよいと思います。よって、違憲対象としては、法案第3-1及び第4を選択することになるでしょう。

 具体的自由としては、バス事業を行う自由というよりは、高速専業をすることができないことが不満なのですから、“乗合バス事業者が高速路線バスのみを事業とする自由”や“高速専業をする自由”と設定するのがよいでしょう。ここが1つのポイントです。

 この具体的自由に対する権利・条文は、職業の自由(22条1項)です。

 

2 憲法上の権利の制約

 職業の自由については、115頁以下に記載されています。

 高速専業は、収入を得るための営みですから、「職業」にあたります。乗合バス事業者が高速路線のみを選択することができなくなっていることから、「職業」の「選択」にあたります。よって、“乗合バス事業者が高速路線バスのみを事業とする自由”が職業選択の自由として保障されると考えられます。

 他方で、高速路線バスの選択は、乗合バス事業者がどのようなバス事業を選択するかという職業内容・態様の選択であるともいえます。このような捉え方をすると、乗合バス事業はできているので、選択の問題ではなく、遂行の問題であるともいえます。

 いずれの考え方であっても、“具体的自由”との関係で「選択」なのか「遂行」なのかについて自らの考え方を展開すべきです。

 これについて、法案第3-1・第4により高速路線のみでの事業ができなくなっていることから、制約が認められます。

 

3 判断枠組みの定立

 薬事法違憲判決を利用した判断枠組みを定立することになるでしょう。薬事法違憲判決の利用の仕方は、116~119頁に書いてあります。答案上の書き方としては、論証例(119頁)を大前提として示し、具体的な検討をしていくことになります。

 本問の最大の難所は、この判断枠組みの定立に関する各事情、特に規制態様と規制目的をどのように評価するのかがポイントだと思います。“具体的自由”の保障根拠へのインパクトという視点(収入にどのような影響があるのかなど)を踏まえて、検討していきましょう。

 

⑴ 権利の性質―「職業」っていえるのか?

 本件で設定した“具体的自由”がその性質を本当に持っているのでしょうか。やや発展的な思考ですが、具体的自由が保障根拠にどれだけ合致するかどうかという思考(21頁)に沿っていくと、このあたりは気になります。特に、職業の自由と財産権の保障範囲を分けるという考え方からすれば、このあたりは検討しておきたいところです。

 “乗合バス事業者が高速路線バスのみを事業とする自由”は、①人が自己の生計を維持するためにする継続的活動、②社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担という要素は満たすと思いますが、③個人の人格的価値との不可分とまでは言えるでしょうか。③がやや微妙な権利が、判例の想定している権利と同等であるというには、一言触れる必要があると思います。

 “乗合バス事業者が高速路線バスのみを事業とする自由”は、社会的ニーズに応えているという点が大きいと思います。長距離の移動を安価で行うことができることは、社会的に重要な役割であり、そして、生活路線バスとともに行うと、この安価という面が難しくなってしまうと考えると、高速専業というのは社会的に重要な職種であると考えることができるでしょう。このような側面がまさに人格的価値に関連しているといえます。そうだとすれば、③の要素が弱くても、①や②の要素が大きいといえ、同等の権利と考えることができるでしょう。ただし、③の要素が一番重要であるという考えを前提とした場合、この要素が弱いとなると、必ずしも重要な権利とはいえなくなってしまうとも考えられると思います。

 

検討編②へ続く。