J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題17:検討編②~規制①の後半~

⑵ 事の性質①-事前規制or事後規制

 規制態様の検討に入りましょう。まずは、117頁によれば、まずは事前規制なのか、事後規制なのかを検討していきます。

 広い意味で乗合バス事業ができており、高速路線or生活路線の選択にすぎないとすると、職業内容・態様の選択に対する制約にすぎず、事前規制ではないと考えることができます。また、生活路線バスを一部でも用意しておけば、高速路線バスはできるので、主として高速路線バス事業を行うことは可能であるともいえます。さらに、受託という形で高速専業を行うことは可能です。

他方で、生活路線を選ばなければ、高速専業としての乗合バス事業ができない以上、職業の入口の段階での規制であるといえ、事前規制とも考えられます。また、生活路線バスを一部でもやればいいというが、参入要件やコストからして、それは容易にセットで経営できるものではなく、実質的に高速路線バス事業を経営すること自体が難しいとも考えることができます。

このように、そもそも乗合バス事業をするか否かのレベルの問題なのか高速路線バス事業をするか否かのレベルの問題なのか高速専業をするか否かレベルの問題なのかによって、規制態様への評価の仕方が変わってきます。

 

⑶ 事の性質②-客観規制or主観規制

 次は、客観規制かどうか、すなわち、自助努力により克服できる制約かどうかを検討していきます。

 高速路線バス事業をするためには、生活路線バスを一部でも行えばよく、経営努力により高速路線バス事業を行うことは可能です。また、受託を受けるように働く掛けを行えば、高速路線バス事業を行うことは可能です。これらの立場からすれば、自助努力により克服することは可能となります。

 他方で、生活路線バスをやればいいというが、新規参入するために条件が設定されており(法案第4)、参入できる地域が非常に限定的で、自助努力により克服はできないといえます。また、仮に参入で来たとしても、路線開設のためにコストが多くかかり、かつ、そのような路線では利用率が低いことが容易に想定され、収入が大きく減少し、経営自体を脅かすような選択をしなければならないとも考えられます。このような場合、克服自体はできるとしても、克服してしまえば本末転倒となり、結果的に制約が大きいものであるともいえます。さらに、受託を受ければよいというが、そのためには委託契約をしなければならず、関連会社でなければコストはかかりますし、形式的にでも貸切バス事業を行う必要がありますから、結果的にコストが大きくかかってしまうともいえます。

 このように、自助努力により克服はできるが、そうすると、かえって経営そのものを害するリスクがあるとも考えることができ、このような場合にどのような評価をするのかがポイントになってきます。

 

⑷ 事の性質③-規制目的

 規制目的については、司法試験ではもうお決まりの問題提起でした。すなわち、積極目的と消極目的が共存する場合に、裁量の幅をどのように調整するかという問題です。規制目的二分論については118頁で整理されており、複数の目的がある場合の考え方は183頁以下で示されています。なお、本書では、初学者でも押さえやすい“主たる目的を認定する”というやり方を紹介していますが、これのほかに、目的について深く踏み込むと立法権を侵害するおそれがあることから、法律の文面上の目的を基準として、手段審査を慎重に判断するという手法も取れます(憲法ガール参照)。

 法案第1では、地域における住民の移動手段を確保することを目的としており、その手段として、高速専業を行う乗合バス事業者に生活路線バス事業を行うように促進しています。地域における住民の移動手段を確保することは、住民の生活を維持し、また、高齢者の運転ミスからの高齢者及び第三者の生命身体の保護につながるといえます。そのような意味では、消極目的と位置付けられます。他方で、生活路線バスの収益を改善し、地域交通の維持を行うというのであれば、経済上の政策ともいえるため、積極目的とも捉えられます。

 いずれの目的が主たる目的かといわれると、前者のような気がしますが、問題文の事情を踏まえて理由付けをすることが必要でしょう。その上で、消極目的だとなぜ裁量が狭まるのかについての理由をしっかりと答案に示すべきです。

 

⑸ 判断枠組みの定立

 以上のように、規制態様・規制目的の捉え方によって、審査密度は変わってきます。事情を踏まえて、評価をし、なぜ制約が重大と言えるのかなどをしっかりと答案に示すことが求められます。なお、個人的には、厳格な合理性の基準(≒LRA)になると考えました。

 

4 個別的具体的検討

⑴ 目的

 規制①の目的は、地域における住民の移動手段を確保することです。これにより、住民の平穏な生活(13条後段)移動(22条1項)の確保ができますし、高齢者や第三者生命・身体(13条)の保護につながります。このような意味で、目的は憲法上の権利を保護するものと評価でき、重要な目的といえます。

 

⑵ 手段

 目的審査において、違憲となる余地はほとんどないと考えられます。そのため、手段審査が勝負の分かれ目だと考えます。

 規制①の手段は、高速路線バス事業は、生活路線バスを運行する乗合バス事業者にのみ認められるというものです。このような手段を取れば、高速路線バス事業を行いたい事業者は、生活路線バス事業を行うようになり、生活路線への参入が促進され、結果的に地域における住民の移動手段を確保することにつながるといえます。他方で、新規参入できる生活路線は低収益が予測される路線がほとんどであり、新規に路線をつくるためにはコストがかかり、結果的にバス事業そのものがうまくいかなくなってしまうとも考えられます。

例えば、高速路線数が一定数以上の事業者や高収益を獲得している事業者であれば、コストに耐えうるとも考えられますが、資力が乏しい事業者や新設した事業者にとってはかなり酷なことになりかねません。そうだとすれば、資力条件を設けるなども一つの手段であるともいえます。

また、例えば、生活路線の参入をした場合に補助金を支払うなどの対処によりコストの問題を回避することができるともいえ、このような場合は現状の法案では過剰な規制ということになるとも考えられます。そもそも、既存の生活路線バス事業者に補助金を投入するという形でも対処できるのではないかとも考えられます。

手段に対しては、上記のように、ほかの手段が考えられそうです。現在の手段でも目的を達成することはできないことはありませんが、より制限的でない手段は想定できます。

 

5 結論

 以上の検討を踏まえると、判断枠組みの定立において、中間審査(≒LRA)を採った場合は違憲となりそうです。他方で、合理性の基準を採った場合は、目的と手段との間に観念的な適合性は認められますから、合憲となりそうです。判断枠組みの定立において、どのような評価をとるかによって、本問の結論は変わってくるのでしょう。

 

検討編③へ続く。