J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題3:検討編③~本問の検討2:司法権の対象~

Ⅳ 本問の検討2-司法権の対象

 問題文に「この問題が司法権による憲法的判断の対象となるか明らかではない」と書かれています。この点についても憲法上の主張をしておかなければなりません。本問のメインは上記の通りの検討ですから先に解説を書きましたが、本来の検討はこの司法権の対象となることから始めるべきです。司法権の対象は統治において最低限書けなければならない論点ですから、これは押さえておきましょう。

 

1 司法権の対象

 司法権(76条1項)とは、具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家作用です。そして、ここでいう具体的な争訟とは、裁判所法3条にいう「一切の法律上の争訟」を指します。この「法律上の争訟」とは、「①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、②それが法令の適用により終局的に解決することができるもの」をいいます[1]

 

2 部分社会の法理

 A県弁護士会の主張は、部分社会の法理であると考えられます。部分社会の法理についても確認しておきます。

 部分社会の法理とは、自律的な法規範を有する団体の内部紛争については、それが一般市民法秩序と直接関係を有しない限り、当該団体の自主的・自律的な解決に委ねられ、司法審査の対象にはならないとする法理です。

 裁判所が、団体内部の決定に口出しができると、団体の自律性を大きく損なうことになってしまいます。一方で、個人の権利利益の保護のために裁判所による判断は要請されます。そこで、できる限り口を出さないような仕組みとして、作り上げたのが、この部分社会の法理です。

 上記の定義にも表れていますが、原則として、団体の内部紛争には裁判所は介入しません。ここで介入しないのは、自律的な法規範を有する団体に限られます。大学は、「国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究とを目的とする教育施設で会って、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合であっても、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し」ていることから、特殊な部分社会にあたるとしています[2]。その他の例として、地方議会[3]や政党[4]、宗教団体などがあります。

もっとも、「一般市民法秩序と直接関係を有するものであることを肯定するに足りる特段の事情」がある場合は、例外的に裁判所は介入することができます。この「一般市民法秩序と直接関係を有する」か否かというのは、制約される権利利益それ自体の性質や重要性が考慮され、重大な権利利益の侵害である場合は、「一般市民法秩序と直接関係を有する」といえます[5][6]

 

3 本問の検討

 本問では、団体内部の決定が無効であるとの主張ですから、団体の内部事情に対する司法審査という点で部分社会の法理が適用されるかが問題になります。

 まず、A県弁護士会が自律的な法規範を有する団体にあたるかを検討しなければなりません。この点については、争いなく認められることになるでしょう。そのため、Xの主戦場は、「一般市民法秩序と直接関係を有するものであること」か否かです。この点については、会員資格の停止という弁護士としての活動ができなくなってしまう処分が想定されることから、Xに重大な不利益をもたらすものであるといえ、一般市民法秩序と直接関係を有するものであると考えるのが一般的であると思います。

 

 

Ⅴ 注意点

 団体と構成員についての基本的な理解を求めていながら、南九州税理士会事件や群馬司法書士会事件との事案の違いを意識した検討が求められます。そのため、まず前提として団体と構成員についての基本判例の理論を理解し、それを本問に適用し検討することが求められています。そして、その中で、薬事法違憲判決という基本判例の理論の理解を前提に、本問に適用し検討することが求められています。このように、複数の判例のロジック(考え方)を組み合わせることでより重層的で良問ができあがっているといえます。

 「憲法判例の射程」を考えるためには、まずその判例の基本的なロジック(判例理論)を理解しなければなりません。複数の判例がある場合、それを俯瞰し、最高裁の考えを理解しなければなりません。憲法は抽象的な議論になりやすいですが、判例のロジックがどのような意味でつかわれているのかを確かめることを忘れないでください。

Fin

 

[1] 最3小判昭和56・4・7民集35巻3号443頁〔板まんだら事件〕[Ⅱ-184]など参照。

[2] 最3小判昭和52・3・15民集31巻2号234頁[Ⅱ-182](富山大学事件)

[3] 最大判昭和35・10・19民集14巻12号2633頁[Ⅱ-181](村会議員出席停止事件)など。

[4] 最3小判昭和63・12・20判時1307号113頁[Ⅱ-183](共産党袴田事件)など

[5] 地方議会の場合、除名処分については身分の喪失により権利利益が剥奪されるという重大な権利利益の侵害にあたるとして「一般市民法秩序と直接関係を有する」といえます。村会議員出席停止事件では、除名処分ではなく出席停止処分が争われました。この点、除名処分ほどの不利益はないのが通常ですが、「残存任期いっぱいの出席停止と言うこともないとは言えず、実質的には除名処分と異ならない場合もある」と述べられており、当該処分の性質が問題となります。

[6] 大学では、専攻科修了認定行為は、学生が一般市民として有する公の施設を利用する権利を侵害するとして司法審査の対象とされました。富山大学事件では、単位認定行為が問題となっています。単位認定行為は、通常、一般市民法秩序と直接関係を有するものではありません。しかし、「特定の授業科目の単位の取得それ自体が一般市民法上一種の資格要件とされる場合」については、特段の事情が認められる余地があります。