検討課題6:検討編②~制度Aの検討~
検討編①で確認した知識を使ってみましょう!
検討編①⇒https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/26/211438
Ⅱ 本問の検討1-制度A
制度Aは世代別に選挙区を設けるという制度です。選挙制度の合憲性を論じていくのですから、制度形成の論理に従った判断が求められています。
1 立法裁量の根拠と判断枠組み
条文としては、43条2項・47条・44条本文において「法律でこれを定める」とあることから、立法裁量が認められています(形式的理由)。
選挙制度の立法裁量の実質的根拠は、選挙は、①民意を反映すること(国民の利害や意見が公正かつ効果的に国政に反映されること)を主目的としつつ、②民意を集約すること(政治における安定の要請)を重要な副次的目的とするもので、論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではないという点にあります。
このような理由から、「両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の広い裁量に委ねられている」ことになります。立法裁量の根拠からすれば、選挙区を設ける場合には地理的な区分によらなければならないものではないことになるでしょう。
もっとも、制度Aは、社会保障制度における問題があることから、未来世代の声をも国政に反映させるという趣旨のもとに構築されたものです。そこで、この趣旨が妥当なものか、さらに妥当であるとして、これに沿ったものかどうかという形で裁量権の逸脱を検討していきます。さらに、平等選挙という基本原則に反していないかも検討の対象になるでしょう。
2 ”若い声を反映させる”というベースラインとの関係
A制度は、若者の声を反映させるために導入されたもので、社会保障制度における受益と負担という点に着目した制度です。そうだとすれば、このような政策についての賛否を問えるという点で、趣旨に合致した制度といえます。
ただし、ちょっと疑問に思っておきたいのは、このような社会保障制度という1つの争点だけで選挙制度を作成してもよいかという点です。つまり、制度趣旨自体が合理的なものかどうかという点が疑問なのです。
国政上の問題は多種多様で、利害の対立も年齢・世代の違いだけで生ずるわけではありません。そうだとすれば、ただ1つの争点だけに着目して、選挙を行うのは、偏った選挙制度になってしまうのではないでしょうか。しかし、世代間の利害の対立は国政上の大きな問題の一つであることは否定できないところです。そのため、政策本位の選挙制度といえます。そうすると、制度趣旨自体は合理的なものであるといえそうです。
したがって、その趣旨に基づいた制度Aは裁量権の範囲内であるといえるとも思います。
3 平等との関係
少子高齢化社会において、世代別の選挙区を設けた場合、一票の価値が選挙区によって変わってくる可能性があります。特に、本問では各選挙区に同数の議席を配分するのですから、若い世代に有利なように定数を設定することが可能になります(本来であれば、選挙区の人数に応じて定数を調整する方が一票の価値は均衡になります。)。
ただし、具体的にどの程度の不均衡が生じるのかは、問題文から把握できません。出題趣旨でも、「どの程度までの定数配分不均衡が認められるか、について言及できれば上出来です。」とあるので、問題点に気づき、それっぽいことが書けていれば十二分でしょう。各世代の代表ともいうべき者が当選し、各世代の意見を反映できることから、政策目的は大きく選挙制度に反するものではないといえるでしょうが、どの程度まで許されるかと言われると著しく均衡を害するときくらいしか言えない気がします。
仮に、この点に違憲であるとした場合、世代別選挙制度の違憲性を解消ないし緩和する工夫としては、地理的選挙区制度(典型的には小選挙区制度)との併用が考えられます。
※明日は制度Bについて検討していきます!