J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題11:検討編③~知識の活用~

Ⅳ 知識の活用―平成30年度予備試験〔一般教養科目〕の検討

 知識は得るだけで、活用できなければ意味がありません。いま、新たな発見をした君たちは、自らの知識をアップデートさせ、そのアップデートさせた規範としての知識で問題を見ることができるのです。そうすると、見えていなかったものがみえるはずです。

 平成30年度予備試験〔一般教養科目〕を利用して、上記の知識を活用してみることにしましょう。

 

1 設問1について

 設問1は「再分配」と「承認」のそれぞれの特徴について、具体例を挙げながら述べる問題です。知識をすぐに使いたいところですが、知識ではなく、まずは問題文と向き合うことが大切です。

 「再分配」については、第1段落で「それは資源と富のより公正な配分を求める」と述べられています。つまり、公平に(平等に)なるように、資源や富のある者からない者へと提供されることをいいます。この「再分配」の特徴は、第1段落に書かれている例からもわかるように、トップダウン型ということです。例えば、途上国への技術提供は、先進国の規範を及ぼし、途上国のもつ個性がなくなるとともに、明確な上下関係をもたらします。また、累進課税制度も明確な上下関係を前提にしており、このようなトップダウン的なシステムが中心になります。そのため、規範の同化が進み、個性がなくなってくるのです。

 そこで、「承認」の政治は、個性を重視し、差異を承認することにしました。例えば、民族的マイノリティを認め、いろいろな人種が存在する多文化社会を構築していくのです。また、同性婚を認めることもこれにあたります。いいことばかりではないからこそ、筆者は両方が必要だと考えています。「再分配」との対比で、知識を踏まえて考えると、「承認」は個別化にあたると考えられます。確かに、本文では、承認するだけで、その差異から生じる社会問題を是正することは書かれていません。つまり、貧しい人を貧しい人とするだけで、その人への社会保障等がなくなってしまうのです。このような価値観の優劣という点をむしろ拡大させることになってしまいかねません。

 このような点を15行程度でまとめるのが、設問1です。知識における2つの社会を書かせる問題だと分析することができます。

 

2 設問2について

 設問1で、それぞれの問題点の特徴があげられていれば、両方が必要だという筆者の考えは適切なものだと考えられます。設問文から、①筆者の主張、②筆者の主張に対する賛否、③自己の考え、④その具体例、を少なくとも記載しなければなりません。

 筆者の主張は、両方が必要であるということです。これに対して、知識を前提にすると、自己の考えは賛成することになります。「再分配」では、個性がない均質化した社会になってしまいます。対して、「承認」だけでは文化的差異は認められるが、政治的には救済を受けることができないことになります。そのため、承認を認めつつも、差異を理由とする不当な優劣関係を是正するために必要最小限の再分配は必要であるということになります。このような理由から、筆者の主張に賛成というのが私の考えです。

 この具体例として、どのようなものがあるか。本文からもなんとなくわかりますが、ナンシー・フレイザージェンダーについての学者です。この際、ジェンダーで攻めてみましょうか。ジェンダーは、女性の社会的地位の向上がポイントになってきます。再分配の理論では、女性の就労支援制度を構築することになります。しかし、男性と女性の差異を承認しなければ、男性と同様の就労支援制度になりかねず、女性の有する差異を反映した制度とはいえず、結果的に、男性優位の社会であることに変わりありません。そこで、女性の特徴を相互交渉のごとく検証し、規範に書き込み、それを踏まえた社会制度を構築することで差異を認めつつも、差異による不都合を是正することができるのです。例えば、産休・育休制度やその後の復帰支援制度などについて、単にそれを認めるのではなく、男性にも同様の制度を保障する形で、既存の規範を変えていくことが考えられます。

 このような内容のものを20行程度でまとめて、表現することが求められていると考えられます。

Fin