J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題11:問題編~予備試験論文式【一般教養科目】対策~

 「予備試験の一般教養科目の対策なんてできない!」

 そんなはずありません。ちゃんと分析すれば、できます。

 

 一般教養科目で落ちる受験生もいるというのが、受験界通説です。しかし、一般教養科目がFでも合格している人がいます。この事実から、法律科目(7科目)がきちんと書けていれば合格できるということになります。一般教養科目で落ちたという人は、法律科目でギリギリの連続をしているにもかかわらず、これを無視して、一般教養科目のせいにしている人です。とはいえ、ある程度書けなければいけないことには変わりありません。

 法務省は、「出題範囲は,人文科学,社会科学,自然科学とするが,思考力,分析力,表現力等を判定できる出題をすることとし,専ら知識の有無を問う出題はしないものとする。」としています。しかし、実際に問題文を見ればわかりますが、相当文章を読み込まないと論じることは難しいですし、読み込んだとしてもうまく書けないのが普通です。なぜか。ステメンが書けないのと理由は同じです。それは、「知識」がないからです。表向きは、知識いらないよと言いながら、明らかに「知識」を求めています(もし、思考力等だけであれば、もう少しヒントを提示するはずです。)。

 今回は、ここでいう「知識」を示したいと思います。

 とはいえ、これは一度、一般教養科目の問題を解いてみてもらった方が早いので、平成30年度予備試験の問題を解くことにしましょう。20分程度で一度構成してみてください。その上で、検討資料へ進んでみます。

 

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一般教養科目

 次の文章は、ナンシー・フレイザーとアクセル・ホネットとの論争の書である『再分配か承認か?』のうち、ナンシー・フレイザーによって書かれた文章の一部である。これを読んで、後記の設問に答えよ。

 

 現代の世界では、社会正義への要求はより明確な形で二つのタイプに分類されつつあると思われる。第一のタイプは、非常になじみ深い再分配に関する要求であり、それは資源と富のより公正な配分を求める。例えば、北から南への再分配・富者から貧者への再分配・経営者から労働者への(近年まで存続していた)再分配の要求である。たしかに、近年の自由市場主義イデオロギーの再燃によって再分配の支持者は守勢に立たされている。それにもかかわらず、過去百五十年間にわたり社会正義を理論的を考察するときにはほぼたえず、平等主義的再分配の主張はパラダイムとして機能してきた。

 だが今日では、われわれは「承認の政治」という第二のタイプの社会正義の要求に直面することがますます多くなっている。承認の政治が目指す目標をきわめて簡潔に定式化するとすれば、それは差異を肯定的に扱う世界、すなわち、対等な敬意を受ける代償としてマジョリティや支配的文化規範への同化が求められることのないような世界である。たとえば、ジェンダーの差異のみならず民族的マイノリティ・「人種」的マイノリティ・性的マイノリティに特有なパースペクティヴの承認への要求である。近年このタイプの要求は、政治哲学者の関心を引いているだけではなく、承認を中心に置く正義の新しいパラダイムを発展させようとする人たちの関心をも引いている。

 一般的に言って、われわれは新しい状況に直面している。かつては配分を中心においていた社会正義の言説は、いまや一方では再分配に対する要求と他方における承認に対する要求へとますます引き裂かれている。そのうえいよいよ承認の要求が優勢になりつつある。共産主義の退場・自由市場イデオロギーの高まり・原理主義的形式と進歩主義的形式の両方における「アイデンティティ・ポリティクス」の登場、これらすべての展開が相重なって、平等主義的再分配の要求を根絶するまでには至っていないにせよ、それを脱中心化してきた。

 この新たな状況において、二種類の正義の要求は実践的観点でも知的観点でもしばしば相互に無関係なものとして掲げられている。たとえば、フェニミズムのような社会運動の中で男性支配に対する改善策として再分配に注目する政治的動向は、その代わりにジェンダーの差異の承認を強調する政治的動向からますます孤立化している。そうした傾向は理論的次元においてもほぼ同様である。やはりまたフェミニズムを事例として挙げれば、アカデミズムの世界ではジェンダーを社会関係の一つと理解する学者は、ジェンダーアイデンティティあるいは文化的コードと解釈する学者と距離において不安定なまま共存を維持している。こうした状況は、あらゆる領域で社会的政治から文化的政治を切り離し、平等の政治から差異の政治を分離するという、後半に見られる現象の一つの冷笑にすぎない。

 (中略)今日の正義は再分配と承認の両方を必要としているというのが、私の包括的な見解である。

 

【出典】ナンシー・フレイザー/アクセル・ホネット

加藤泰史監訳『再分配か承認か? 政治・哲学論争』

 

 

〔設問1〕

 筆者は、本文中で、社会正義の実現のための手段として、「再分配」と「承認」の2つを挙げている。それぞれの特徴について、具体例を挙げつつ、15行程度で述べなさい。

 

〔設問2〕

 筆者は、社会正義の実現のためには「再分配」と「承認」の両方が必要であり、そのいずれかいっぽうだけでは十分ではないと主張している。

 この見解の論拠について考察した上で、筆者の主張に対するあなた自身の考えを20行程度で論じなさい。なお、解答に当たっては、筆者の主張に対する賛否を明らかにするとともに、あなたの考えを裏付ける適切な具体例を踏まえること。

 

※一度、解いてみてください!その上で検討していきましょう。

検討編①へ続く!

検討編①⇒https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/18/224408