J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題14:検討編①~知識の整理:手続保障~

 人身の自由には、実体的権利と手続的権利の2つの側面に分けられます。それぞれ見ていきましょう。

 

Ⅰ 知識の整理1:実体的権利としての人身の自由

1 憲法18条による保障

 実体的権利としては、まず、憲法18条が、奴隷的拘束からの自由や意に反する苦役からの自由を保障しています。

 

2 憲法22条による保障

 ほかに、憲法22条が、居住・移転の自由や外国移住の自由、国籍離脱の自由(国籍を離脱しない自由や国籍を恣意的に剥奪されない自由も含む。)を保障しています。

「居住」とは生活の本拠を定めることで、「移転」とは生活の本拠を移すことであり、その決定は自己に委ねられるべきであることから、人格の発展に不可欠の権利とみなされます。移動の自由としてとらえることもできますが、その権利の重要性は低くなってしまうでしょう。移動がいかにできないか、という点から制約の重大性を検討することになります。

 

3 憲法13条による保障

 18条・22条により保障されない部分は、13条により保障される可能性があります。ここについては、13条の人格的生存に不可欠なものか否かを検討することになるでしょう。

 

 

Ⅱ 知識の整理2:手続的権利としての人身の自由

 手続的権利としては、いわゆる適正手続の問題です。事前手続がないことが憲法31条に反するとか、そういう話です。憲法31条以下は、刑事手続についての詳細な規定です[1]。ここでの最大の論点は、憲法31条以下が行政手続に及ぶかです[2]判例を見ながら、整理していきましょう。

 

1 行政手続に及ぶか?―条文を準用できるか。

 行政手続に及ぶかについては、川崎民商事件[3]で肯定されました。この判決では、憲法35条1項と38条の適用を認めました。その後、多くの判例が引用する成田新法事件[4]で、憲法31条の適用が認められました。「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当でない」としています。判例は、この理由を明示していませんが、憲法31条以下は、権利侵害の強度な刑事手続について特に規定したにすぎず、行政手続を除外する趣旨ではないという理由だと思われます。直接適用はできないが、準用の可能性を示唆しているといえます。

 

2 憲法31条以下の違憲判断-どのような場合に準用できるのか。

 いかなる場合に違憲となるかは、刑事手続とは異なり、総合考慮による判断がなされます[5]。成田新法事件では、「一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様である」との理由を述べた上で、「行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべき」としています[6]。つまり、①権利の重要性と②制約の重大性vs③公益性で考えることになります。ここでも、先に①②を検討し、どの程度の公益性が必要となるのか(目的となる公益の性質・目的と手段との比例性)を基準のように提示して論述することができると思います。

 これに加えて、川崎民商事件では、「前記に述べた諸点を総合して判断」するとしています。この「前記」には、手続の一般的性質・作用(刑事追及目的の手続か否か、保障の程度としてどの程度かなど)が書かれています。その後の判例でも、手続制度を考察し、これを考慮要素に加え、しかも重視しています。そのため、④手続の構造というのも忘れてはいけません。

 なぜ、このような差が生じているのかというと、川崎民商事件は、刑事手続的側面があること(行政調査が捜索や検証といった側面を有していたこと)がある一方で、成田新法事件は、「典型的な行政手続」であると評価されているからです。この認識のずれから、成田新法事件は、手続的制度的な保障構造を明示的には検討しなかったのです[7]。この判例の射程を意識することになりますが、その後の判例の展開をみると、やはり④の要素はかかることができません。①~④を総合較量しようという意識で検討しましょう。

 

検討編②⇒https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/29/210344

 

[1] 刑事手続上の問題点はありますが、それらは刑事訴訟法の領域になります。憲法36条と死刑制度については論点としてはありますが、試験的には出ないものと思われますので、ここでは取り上げません。

[2] 論点としては、このように取り上げられます。しかし、成田新法事件では、「保障されるとしても」と譲歩の形をとっています。そのため、“適用の可否→適正か否か”の二段階的な審査をしている印象です。しかし、調査官解説によれば、準用できるか否か=“適用の可否”の話であるとされます。判例上、明確に示されていない部分ですから、ここは曖昧に指摘するしかできません。例えば、「○条は、憲法31条に反し、違憲か」という問題の所在にし、下記の⑴⑵の話を書くのが良いと思います。

[3] 最大判昭和47・11・22刑集26巻9号554頁[Ⅱ-114]

[4] 最大判平成4・7・1民集46巻5号437頁[Ⅱ-109]

[5] 刑事手続は、要件該当性により判断されるので、総合考慮とは異なります。

[6] 前掲・注2と関連して、ここでの規範は、なんの判断枠組みかが明示されていません。とりあえずは、準用できるかどうかについての規範であると理解しておけばよいです。

[7] その後の判例で、成田新法事件は引用され、手続の構造を考慮することに判例変更はないとされていることから、手続の構造は黙示的に検討されていたと考えるべきです。