J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題12:検討編①~問題分析の仕方~

Ⅰ 問題分析の仕方

 受験において問題の分析は重要です。分析の仕方はいろいろあります。出題される論点としてどのようなものが予測されるかという観点からの分析は多くの受験生がやるでしょう。しかし、このようなピンポイントの予測は果たして有効でしょうか。直前期の「遊び」というは非常に有効だと思いますが、それが出るかどうかは運によるものが大きいです。

 ほかの分析の仕方として、どのような答案が点数になるのか、抽象的なレベルにおいてどのような思考が求められる問題が出題されているのかという観点からの分析があります。採点実感を読むことで、どのような答案が点数の高い答案であるかがわかってきます。出題趣旨をみれば、どのような思考が求められているかがわかります(論点の理解の仕方ではなく、趣旨から考えるといった抽象的なレベルでどのような思考が求められているかを考えます。具体的な論点ばかりに目が行きがちですが、それがもう一度出る可能性は低いです。そのため、より応用可能な視点で見る必要があります。)。出題趣旨や採点実感がない場合でも、問題を5年分くらい並べてみると、どのような思考が必要とされているのかなどがわかってきます

 とはいえ、こんな分析は素人には難しいので、得意な人がやるべきものです。たぶん、周りに一人くらいはいると思います。そういう人と一緒に分析してみましょう。今回は、慶應ローの憲法について、私が分析したことを特別に公開したいと思います。ほかの科目も分析しているのですが、今回は憲法に限ってみていきましょう。

 

1 形式面で半分以上が決まる

 憲法においては、特に、①形式面②内容面に大きく分けられます。

 過去問を見ると、過去は形式が8割方というものでしたが、近年の傾向は内容面での説得的な論証を求めています。ただし、実際に、慶應ローに入学するとわかりますが、形式面が歪んでいる答案を書くロー生がほとんどです。なので、形式面がきれいになっていると、それだけで得点が高くなります。

 また、設問に答えることが大切です。特に、平成31年度(2019年度)の出題趣旨で、「設問では、『Xの相談を受けた法律家甲』として『意見を述べる』ことが要求されている。したがって、『X/Y/あなたの見解』という流れで記述する答案も、解答の形式要件を欠く。」との指摘がなされています。問題形式をよく見て、解答することが大切です。

 

2 内容面についての注意事項

 慶應ローの憲法の問題において、一番重要なのは、入口です。つまり、条文の選択・権利の選択・具体的自由の設定が勝負になります。入口を間違っても点数はつきますが、論証がかなり難しくなってしまいます。入口の段階で最適解を選択することは、過去問演習を通して経験しておく必要があります。また、違憲の対象を特定しましょう。特に、法令違憲の場合、法令のどの条文についてのものなのか、詳細な指定をすべきです。入口については、問題文に誘導があります(誘導ではないような誘導ですが、ちゃんと読みこめば誘導に気がつきます。)。この誘導をしっかり見ることが重要です。

 近年では、内容面での説得的な論証が求められています。判断枠組みの定立においては、権利の重要性制約の重大性について、保障根拠とともに丁寧に論じ、いかなる判断枠組みをとるかを明示する必要があります。このときに、裁量を述べる場合には、その理由・根拠条文とともに示すことが大切です。

 個別具体的な検討においては、まず、判断枠組みの示す文言がどのような要素を検討するのかを理解しておくべきです(重要な目的と必要不可欠な目的はどこがどう違うのかなど。)。そして、目的については、立法目的をちゃんと認定することです。慶應ローの問題では、目的をあえて明示しない傾向にあります。そのため、自分なりに考えて、目的を設定する必要があります。このときに、検討対象の条文の目的であることに注意してください。法律全体の目的(第1条とか。)を挙げるだけで終わってはいけません。

 手段については、分析的にやる必要があります。ここでも、具体的に何を検討するのか(実質的関連性と合理的関連性の違いなど。)を理解し、適格にあてはめる必要があります。

 

3 問題のパターンと判例

 判例を意識しておく必要はあります。ただし、平成31年度や平成29年度のように、判例の意識よりは説得的な論証を求めている問題があります。つまり、慶應ローの過去問の特徴として、判例型の問題説得的論証型の問題に分けられます。細かい権利や論点ではなく、これくらいざっくりとした分析が意外と重要です。

 判例型の問題の場合、判例の理解の深さが求められます。例えば、判断枠組みを押さえていたとしても、その判断枠組みにおける重要な要素を把握しておく必要があります。よって、しっかりと分析しておく必要があります。

 説得的論証型は、緻密な論証をしていかなければなりません。権利の特定、判断枠組みの定立の理由となる権利の性質・制約の態様、目的手段審査の中身などを説得的に論じることが重要です。

 

4 まとめ

 注意すべきことをまとめておきます(司法試験においても採点実感を分析して、こういう風にまとめておくと、直前に見返しやすくなります。)。

・問題文にあった答案を作ること。

・問題文をよく読み、誘導に乗ること。

・入口の選択①:具体的利益の特定、条文の選択で最適解を選ぶ。

・入口の選択②:違憲の対象となる条文・処分を詳細に特定する。

判例を意識する場合は、どの事実が重要なのかを意識してあてはめる。

・判断枠組みの定立や個別具体的検討を詳細に説得的に論じる。

・判断枠組みの要素を理解しておきます。

・目的を特定し、分析する。

 

5 本問の分析

 本問は、メインとなるような判例がある問題はありません。ゆえに、判例型の問題ではなく、説得的論証型の問題です。つまり、緻密な論証をしていく必要があります。特に、本問では、権利の特定、権利の性質・制約の態様について、具体的な事実を含めた説得的な論証を展開していかなくてはなりません。なお、本問に類似した問題は、慶應ローの3年の講義である公法総合Ⅰで2013年に出題されています。ただし、ローで使用される期末試験などの問題とのリンク率はそれほど高いものではないので、入手してやる必要はないです。

 

検討編②~原告の憲法上の主張~へ続く!

⇒ https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/23/174740