J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題8:検討編①~職業の自由~

【出題趣旨】

本問は,職業の自由に対する制約,そして結社の自由に対する制約の合憲性に関する出題である。職業の自由の制約に関しては,近時,規制目的二分論に言及することなく判断している最高裁判例(最三判平成12年2月8日刑集第54巻2号1頁,最三判平成17年4月26日判例時報1898号54頁)や租税の適正かつ確実な賦課徴収という第三の目的が示された最高裁判例(最三判平成4年12月15日民集第46巻9号2829頁)があり,まずは,規制目的二分論の有効性自体を検討する必要がある。その上で,設問の条例の目的を政策的目的と位置付けるとしても,その具体的内容や制約の合憲性審査の手法につき,定型的でない丁寧な論証が求められる。さらに,設問の条例は,目的達成手段として強制加入制を採用している点において,結社の自由への制約の問題についても検討する必要がある。強制加入制の合憲性をめぐっては,南九州税理士会事件(最三判平成8年3月19日民集第50巻3号615頁),群馬司法書士会事件(最一判平成14年4月25日判例時報1785号31頁)などで争われており,これらの判例も念頭に置きつつ,本問の条例では,条例が定める目的を達成するための手段として,営利法人に対して団体への加入を義務付け,さらに,違反に対して最長7日間の営業停止という処分を課すことができるとしている点などを踏まえ,制裁で担保された強制加入制の合憲性を論じる必要がある。

http://www.moj.go.jp/content/001128604.pdfより引用。

 

Ⅰ 入口の特定

 このブログでは、毎回言っているような気がしますが、憲法の事例問題を解くに当たっては、入口の特定が重要です。ここでいう「入口」とは、当事者の生の主張から特定された具体的自由の設定・権利と条文の選択及び違憲の対象の選択です。もちろん、訴訟選択も必要となります。

 C社は「本条例が違憲である」と主張しているのですから、違憲の対象は本条例であることは明らかです。問題は、権利と条文の選択です。

C社は「加入義務」に不満を抱いているのですから、C社の生の主張としては、“加入したくない”というものです。そのため、具体的自由としては“商店会に強制的に加入させられない自由”であり、これを法的に根拠づけると、消極的結社の自由(憲法21条1項)となります。

 また、加入義務違反のときは7日間の営業停止処分を受けることが予定されています。このような制裁で担保された加入義務は営業活動を狭めるものといえるでしょう。そのため、“商店会に加入せずに大型店が営業をする自由”への制約があるとして、職業の自由(憲法22条1項)に対する制約を検討する必要があります。

 なお、商店会への会費の強制的な納入という点で、財産権(憲法29条1項)に対する制約も考えられないことはありません。ただし、問題文でのC社の主張はあくまでも「本条例」の違憲性です。本条例は、最寄りの商店会への加入を義務付ける条例ですから、商店会の会費まで義務付けていません。そのため、財産権に対する制約はやや婉曲的な主張になってしまうと考えます[1]

 受験生の多くは職業の自由を選択した人が多かったようです。そのため、職業の自由に対する制約の検討からしたいと思います。

 

Ⅱ 職業の自由に対する制約

1 憲法上の権利の制約

 「職業」とは、人が社会において、生計を得ることを目的に一定の継続性をもって行う活動をいいます。まず、C社の大型店を営むことが「職業」にあたることを端的に指摘することになります。なお、法人の人権については、あえて検討をする必要はありません。これについては、検討課題2:検討編①https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/11/010829)で説明していますので、そちらをみてください。

 介入する義務があることから、職業の自由が制約される…と言いたいところですが、本当にそうでしょうか。加入するか否かに関わらず、C社は大型店Bを営むことができます。そのため、制約がないとの反論ができます。もっとも、商店会に加入すると、売り場面積と売上高に一定の率を乗じて算出される金額を回避として、商店会に支払うことを義務付けています。大型店Bの場合は、平均的な金額の約50倍を支払わなくてはならず、Bの経営方針等に大きな影響を及ぼします。この点を捉えて、制約と認めることになるでしょう。

 なお、刑罰規定による制約は認められません。本件における7日間の営業停止処分を受けることは制約になりません。ここについても、検討課題2:検討編①https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/11/010829)で説明しています。

 

2 判断枠組みの定立

 職業の自由における判断枠組みの定立について、参考にすべき判例理論は、薬事法違憲判決[2]です。薬事法違憲判決のロジックについては、検討課題3:検討編②https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/15/165957)で説明しています。

 すなわち、「職業の多様性に応じて,その規制を要求する目的も多様であり,また規制手法も多様であることから,立法裁量が認められる。これより,憲法上是認されるかどうかは一律に論ずることができず,具体的な規制措置について,規制目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量したうえで決定すべきである。」とでも答案に書くことになるでしょう。

⑴ 職業の自由の性質・内容(権利の重要性)

 職業の自由の保障根拠は、薬事法違憲判決によれば、「職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである」という点にあります。最も重要なのは、人格的価値を有するものか否かです。

 大型店を営むことについて、C社がどのような経営方針を採っているのかは不明です。この点、上位答案の再現によれば、「人は様々な生活条件の下特定の場所での営業を希望するものである」として、その場において営業することは人格的価値を有するとしました。この表現は果たして理由付けとして適切なのでしょうか[3]。確かに、大型店は地域住民にとって不可欠なものとも考えられ、社会的機能分担たる活動の性質はあると思います。

⑵ 制限の程度(制約の重大性)

 薬事法違憲判決の「事の性質」として、まず、事前規制か事後規制かが問題となります。この点、普通に考えれば、営業そのものの開始を否定するものではないため、事後規制にすぎないと言えます。もっとも、原告としては、ここは事前規制に相当するものと言いたいところです。そこで目をつけるべきは、会費です。商店会に支払う会費は、平均的な金額の約50倍であり、経営を大きく圧迫するものです。また、商店会の意向に左右される可能性もあることから、C社の経営が必ずしも全うできる状態ではないと考えられます。このような考えを採るのであれば、経営そのものが大きく制約されており、人格的価値を毀損することになるでしょう。

 次に、主観規制か客観規制かが問題になります。原告としては、強制的に加入させられることから、自助努力により克服が困難であるとして、客観規制であると主張すると考えます。対して、被告としては、A市内でない場所での経営を行えばよいことから自助努力により克服が可能であるとの反論をすることができます。A市内で経営を行うことをC社はどのように捉えていると評価するのかがポイントになるでしょう。

⑶ 裁量の幅

 最後に、規制目的二分論による裁量の幅の確定です。本問においては、目的が2つあります。すなわち、第一の目的は、共同でイベントを開催するなど大型店やチェーン店を含む全ての填補が協力することによって集客力を向上させ、商店街及び市内全体での商業活動を活性化することです。第二の目的は、大型店やチェーン店をも含めた商店会を、地域における防犯体制等の担い手として位置づけることです。第一の目的は、経済的政策目的といえることから、積極目的といえます。他方、第二の目的は、商店街の防犯を目的とするものですから、生命・身体に関するものであるとして、消極目的といえます。

 そもそも、規制目的二分論に言及することなく判断している最高裁判例があることから、もはや規制目的二分論は採用されていないと考えることもできます。ただし、出題趣旨に挙げられている3小判平成12・2・8刑集54巻2号1頁〔司法書士法事件〕[Ⅰ—95の調査官解説では、警察・消極目的であるとされています。また、最3小判平成17・4・26判時1898号54頁では、判旨には明確に表れていないものの、積極目的であるとされています。特に、小売市場判決[4]が参照されていることからも明らかです。このように最高裁は、明示的に規制目的二分論を採用していないですが、考慮要素としての検討をしていると考えるのが妥当です。理由付けの意味が失われているとは考えられないからでしょう。

 積極目的と消極目的が双方ある場合[5][6]の処理方法としては、1つは立法事実等から主目的を特定し、その目的に沿って検討するというものです。もう1つの方法は、当該規制について裁判所の審査を及ぼすことのできるものか否かという視点で検討することです。前記のように、積極目的と消極目的で立法裁量に差がうまれるのは、裁判所の審査が妥当しやすいものか否かです。根拠までさかのぼって検討すれば可能です。

 では、本問の場合、どのように考えるのがよいのでしょうか。問題文の第1段落によれば、防犯面の問題は商店街がシャッター通りと化してしまうことから生じる問題であるといえます。このことから、根幹的な解決を図るという観点からは、第一の目的が主たるものであると考えることが可能です。他方、第二の目的が存在する以上、司法審査が及ぼし得るとして、裁量の幅を狭くすべきとの考えもあり得ます。

 この点については、自己の見解としてどのように考えるのかを明示し、適切な検討をすべきでしょう。

 

3 個別具体的検討

 目的は2つあります。それぞれの目的について、言及しなければなりません。厳格な合理性の基準における“目的が重要であること”とは、他の人権(または、それと同等の価値のもの)を保護するものという考えがあります。他方、合理性の基準における“目的が正当なもの”とは、恣意的な目的でなければよい(目的の正当性を覆すような事情が特になければよい。)というものです。他の人権保障となるとまでいうには、憲法上の条文等の指摘が必要になってきます。この点も含めて、検討することになるでしょう。

 手段審査において、実質的関連性があると認められる場合は、手段が立法事実に基づき目的を達成できるもの(適合性のあるもの)で、制約による不利益との均衡との観点で、当該規制方法が必要なのか(必要性及び相当性)が認められる場合です。他方、合理的関連性があると認められる場合は、手段が観念的な理屈に基づいて目的が達成できればよいと考えられれば、適合性ありになります。相当性の検討は不要です。この各要素を意識することになります。本条例の手段は、加入義務です。関連性との関係では、加入義務を課すことで目的が達成されるのかを考えます。手段の必要性及び相当性との関係では、商店街からはずれた大型店であること、大型店がタダ乗りをしていること、財産的な問題であれば市が援助すればよいのではないかということなどを考えることになるでしょう。なお、問題文から、会費の算出方法(会費が高額であることなど)や営業停止処分の日数(7日間は長すぎなど)の相当性については検討しなくてよいとされています。

 前にも話しましたが、このブログでは結論を明確に示しません。検討資料にすぎないものであり、これが絶対的なものではないからです。この検討資料を利用して、みなさんが考えて、いろんな人と議論して、自分の結論を考えることが大切です。

 

※検討編②~結社の自由~に続く!

検討編②⇒https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/06/144946

 

[1] 薬事法違憲判決では、「職業」の性格について、「各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分に関連を有するものである」としている。このことから、単なる営利を追求するような営業活動は「人格的価値」がなく職業の自由の保障範囲ではなく、財産権の一部にすぎないとも考えられている。このような見解によれば、後述される権利の性質との関係で財産権を選択することも誤りではないと考えられる。なお、営業の自由を職業の自由と財産権に分ける考えを示唆するものとしては、渡辺康行ほか『憲法Ⅰ 基本権』(日本評論社,2016年)323頁があり、明確に書かれたものとしては、伊藤たける憲法 論文の流儀」受験新報2016年12月号12~13頁がある。

[2] 最大判昭和50・4・30民集29巻4号572頁[Ⅰ-92]

[3] あくまでも個人的な意見であるが、「人格的価値」とは、その職業を行う者にとっての価値を指すので、店を利用する消費者にとって価値があるというのはややずれた記載ではないかと考えている。

[4] 最大判昭和47・11・22刑集26巻9号586頁[Ⅰ-91]

[5] 規制目的二分論の批判の一つが場合を明確に区別できないというものです。平成26年度司法試験もこのような併存する目的でした。その際、規制目的の性質を検討しないのではなく、なぜ裁量を認めるのかまで遡って検討するとよいと思います。

[6] 目的について、あまり踏み込むと立法権を侵害するおそれがあります。そのため、法律の文面上の目的を基準として、手段審査で厳しくみるという手法も考えられます。真の目的があるときは、文面上の目的と手段との差が出やすいからです。なお、本問では、条例の条文がなく、文面上の目的がわからないため、この方法を採ることはできません。