J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題2:検討編②~判断枠組みの定立~

Ⅳ 判断枠組みの定立

 当事者間において,もっとも争点となり得るのは判断枠組みの定立だと思います。というのも,仮に厳格な審査基準となった場合には,違憲になる可能性が高く,被告としては,これを防ぎたいからです。このように判断枠組みの定立の検討は重要です。

 判断枠組みの定立にあたっては,権利の性質(重要性)や制約の態様(重大性),裁量の観点から検討するのが一般的です。もっとも,判例により着目すべき事情が示されている場合は,それに即した検討をすることになります。

 

1 権利の重要性

⑴ 権利の重要性とはなにか?

 後輩指導をしていたときに、「権利の重要性って、なにがあれば重要なの?」と質問をすると、困ってしまう学生が多かったです。実際、受験生だった頃、私自身、明確にこの答えが書いてある本に出会っていません(ないことはないと思いますが、一般の受験生にはまだ浸透していないのでしょう。)。

 権利の重要性”とは,権利の核心に近ければ近いほど重要性が増加するというものです。ここでいう権利の核心とは保障根拠に完全に合致するようなものであると捉えれば,保障根拠との距離間が権利の重要性となると思います。表現の自由においては,営利的表現の自由が権利としてそれほど重要でないとされる理由は,民主主義の過程への反映という保障根拠②を満たさないからです。他方,政治活動の自由は,保障根拠①から④すべてを満たすものですから,表現の自由の核心といます。

 この検討にあたって注意しなければならないのは,自己の設定した“具体的自由”の性質を検討しなければならないということです。すなわち,表現の自由一般についての検討をするのではなく,自己の設定した“具体的自由”がどれだけ保障根拠を合致するのか,保障根拠へのあてはめを行うことになるでしょう。ゆえに,同じ表現の自由に保障される自由であっても,設定の仕方や事情によって具体的自由の性質は変化するものだと思います。 

⑵ 本問の検討

 これを踏まえて,“テレビ局の広告放送の自由”がどれだけ保障根拠に近いのかを検討することにしましょう。特に,営利的表現としての広告放送を表現の自由として保障した理由が,国民の「知る自由」に奉仕するというものであるのであれば,国民の「知る自由」にどれだけ奉仕するのかが重要な事実となると思います。本問においては,「特にゴールデンタイムと呼ばれる午後6時から同11時までの時間帯においては,視聴率が高いのみならず,幅広い層の視聴者が存在することから,広告放送の影響力が大きい。そのため,広告放送による営業戦略を行う販売会社は販売率が上昇する一方で,テレビ局としても高額な広告料を確保することができ,Win-Winな関係を築いていた」という事実から保障根拠②を満たさないとも考えることができます[1]。また,マスメディアの表現活動が,国民の知る権利に奉仕し,その帰結として民主的政治過程の維持や受け手となる個人の自律的な生を支える基本的情報の提供など,社会全体の利益を実現することにあり保障根拠①を充たすともいえます。他方,マスメディアは,個人ではない以上,自分の生き方を自ら考え,決定する個人と同様の意味における表現の自由を享有しないとすれば,保障根拠③を満たさないことになりえますが,本問の事情として,「テレビ局がドラマ等の登場人物とCMのコラボをすることで,ドラマ等の視聴率を上げる」とのテレビ局の意図が広告放送行為に含まれているとすると,必ずしも団体としての自律に資さないとは言えないようにも思われます。このように具体的事情に即して,“具体的自由”としての“テレビ局の広告放送の自由”が保障根拠とどれだけ密接に関連するのか,より事案に踏み込んだ検討が期待されています。

 

2 制約の重大性

⑴ 制約の重大性とはなにか?

 例えば,北方ジャーナル事件[2]では,「表現行為に対する事前抑制は,新聞,雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達される道を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ,公の批判の機会を減少させるもの」と評価し,制約が重大であるとして,厳格な審査を行っています。この部分を見てみると,保障根拠①への弊害の大きさから制約の強度を検討しているといえます。

 このように,制約の重大性は,保障根拠をどれだけ害するか(保障根拠へのインパクト)を検討し,それが大きければ大きいほど制約は重大であると考えられます。

 表現の自由への制約としては,⒜検閲・事前抑制・事後規制という規制のタイミングに着目した分類,⒝内容規制・内容中立規制という規制対象に着目した分類,⒞間接的付随的規制という目的に着目した分類[3]などがあります。これらの分類は併存しうるものです。もっとも,この分類のどの規制にあたるかが重要なのではありません。重要なのは,制約の強度であり,すなわち,保障根拠へのインパクト度合いです。例えば,内容規制にあたるから厳格であるという論理は必然的なものではなく,本件の規制が内容規制にあたり,当該規制は保障根拠へのインパクトが大きいことから,制約が重大であるという論理が正確で,丁寧な論理だと考えます。 

⑵ 知識の整理4-内容規制・内容中立規制

 このようにいずれの類型にあたるかの認定をしたのち、その規制の評価をしなければなりません。ここでは、内容規制と内容中立規制について、保障根拠との兼ね合いを整理したいと思います。

 内容規制の場合,厳格な審査を用いることが通常です。その理由は,①内容に含まれる特定のメッセージが世の中から排除されることによって思想の自由市場が大きくゆがめられてしまうこと,②特定の内容の見解が規制されることによってそれが民主政の過程に顕出されず,民主政の過程を機能させなくすること,③当該表現内容自体が国家に不当なものであると評価されてしまえば,当該表現を主張したい者の人格的価値を毀損する恐れが大きいこと,④内容がもたらす弊害の認定は主観的なものになるから,公権力の恣意が働きやすいことから,一般的に保障根拠すべてにインパクトが大きいとされています。

 他方,内容中立規制は,比較的緩く審査される傾向にあります。その理由は,①メッセージを運ぶ行為形態のうち特定のものを規制しても,それ以外の行為形態による発信・伝達が可能であるから,自由市場から排除されないこと,②特定の内容の見解が民主政の過程に顕出されないことはないこと,③外形的行為のもたらす弊害に着目した規制であることから,表現内容そのものが不当なものと評価されたわけではないため,人格価値の毀損の恐れが小さいこと,④外形的行為のもたらす弊害は客観的に判断可能であるため,公権力の恣意が働きにくいことから,保障根拠へのインパクトが乏しいからであると,一般的に説明されます。

 もっとも,これらは一般論であり,当該事案において同様のことがいえるとは限りません。例えば,そもそも権利の性質上,保障根拠②を満たさない場合,保障根拠②へのインパクトが生じることはありません。ここでも,あくまで自己の設定した“具体的自由”の制約の態様を検討しなければならないと考えています。 

⑶ 本問の検討

 本問では,本件法4条の規制態様をどう捉えるかを考える必要があります。原告としては,営利広告という内容に着目した規制であり,内容規制と捉えることができます。他方,被告の反論としては,時間に着目した規制にすぎず,いわゆる内容中立規制にすぎないとの反論が考えられます。また,視聴者の利益を保護することを目的としていることから,表現活動そのものの規制を目的とするものではなく,間接的付随的規制にすぎないとも反論できるでしょう。この点について,いずれの類型であっても,保障根拠へのインパクトの度合いをどのように考えるかによることになります。つまり,規制態様へのあてはめが重要なのではなく,保障根拠をどれだけ害するかが重要なのです。ただし、規制態様のキーワードには触れる方が良いと思います。

 また,問題文によれば,「かつては60分のうち広告放送はわずか2~3分であったが,現在は15分おきに約3分の広告放送が入っており,これらが質の高い放送番組を阻害している」という事情があります。この事情からすれば,過去の事例と比べて,十分な時間が確保されており,テレビ局の広告放送をする機会は昔と比べて十分に確保されているといえ,制約が重大でないとも考えられそうです。他方,ゴールデンタイムという時間は多くの国民がテレビを見る時間であり,広告による利益が大きいだけでなく,それは国民の「知る自由」に大きく資するとも考えられ,これを規制することは国民の知る機会を制限しているとも考えられるかと思います。

 これらの事実から自らで考えて,保障根拠へのインパクト度合いを特定し,事案に一歩踏み込んだ検討をしてみましょう。

 

3 判断枠組みの定立

 以上の検討から、不利益の程度が決まります。となると、この不利益と釣り合うような利益を考えていくことになります。この利益の指針となるのが、目的手段審査です。本件では、表現の自由の一類型である以上、中間審査が最低限であると思います。以上の検討しだいで判断枠組みは変わりますので、それぞれの検討に従った判断枠組みを定立してください。

 

※検討編③⇒https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/11/145322 

 

[1] 保障範囲で見る事実とほとんど重なることが多い。しかし,保障範囲は保障の枠の中に入る否かのみを検討しているにすぎず,保障根拠との近さを検討しているわけではない。権利の重要性では,保障範囲に入ることを前提に,どれだけ近いのか(核心的な自由になり得るのか)という点を検討しているのであり,事実の評価の仕方に違いが生じるのである。

[2] 最大判昭和61・6・11民集40巻4号872頁[Ⅰ-68]。

[3] 間接的付随的規制については,内容中立規制の一類型とみる見解もある。いずれの見解を採ったとしても,重要なのは保障根拠にどれだけの影響を生じさせるかである。