J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題8:検討編②~結社の自由~

Ⅲ 結社の自由に対する制約

 加入義務から直接来る不満を構成すると、結社の自由に対する制約として検討するのが素直な気がします。この点について、基本的な事項を整理した上で、本問の検討をしていくことにします。

 

1 知識の整理―結社の自由

 「結社」とは、多数人が共通の目的のために継続的な団体を結成することをいいます。結社を結成する目的は、表現目的に限定されません。ただし、犯罪を目的とする結社など公序良俗に反するような結社までをも保護するものではありません(ただ、表現活動との境目が難しく、慎重に判断する必要があります)。

 結社の自由は、①個人が団体を結成し、団体に加入し、団体の構成員であり続けることについて公権力の介入を受けない自由(積極的結社の自由)②個人が団体を結成せず、団体に加入せず、団体から脱退する自由を保障しています。特に、①積極的結社の自由については、個人は国家から結社に所属することを禁止されず、結社に所属していることを理由に不利益を受けないことを内容としています。

 結社の自由の保障根拠は、憲法21条1項で保障されていることからして、表現の自由とほとんど同様であると考えられます。特に、集会の自由と同様に、多数人が自己の思想や人格を形成、発展させることに通じます。もっとも、多数人が集まっていることから、構成員の利益も無視できません。そのため、構成員の利益によっては結社の自由が制約され得ることは十分に想定されます。

 

2 憲法上の権利の制約

 本問において、“商店会に強制的に加入させられない自由”は消極的結社の自由として憲法21条1項により保障されます。そして、本条例は加入を義務付けていることから、商店会に強制的に加入させられない自由を制約しているといえます。

 なお、大きく展開する必要があるかは微妙なところですが、「結社」に経済活動を目的とする結社を含めていいのかは議論があります。結社の自由が表現活動の自由の延長線上に認められているものと考えると、表現を目的としない結社は含まれず、経済活動目的の結社は憲法22条1項により保障されるにすぎないと考えられます。しかし、経済活動であっても、定義に当たる以上は保護する方がより憲法上の権利の価値を保つことができます。この理由からすれば、経済活動目的の結社であっても保障はとりあえずされると考えるのが妥当でしょう。

 

3 判断枠組み

 消極的結社の自由の判断枠組みをどう考えればいいのか。おそらく、消極的結社の自由についてはあまり考えたことがなかったと思います。こういうときこそ、本質に遡ることが重要です。

判断枠組みの定立において考えることは、不利益の程度を権利の重要性・制約の重大性という観点から検討し、それに見合った基準を定立することでした。判断枠組みの定立については、検討課題7:検討編③https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/01/172648)で説明しています。また、権利の重要性・制約の重大性の意味については、検討課題2:検討編②https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/11/121445)で説明しています。

権利の重要性とは、保障根拠との距離間でした。また、制約の重大性とは、保障根拠へのインパクト度合いのことでした。さて、消極的結社の自由の保障根拠はなんでしょうか。積極的結社の自由は、表現の自由と同様に考えればいいのでわかりやすいのですが、“消極的”となると、ちょっとピンとこない人がいると思います。しかし、強制加入における不利益については、考えたことがあるはずです。南九州税理士会事件[1]などです(団体と構成員については、検討課題3:検討編①https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/05/14/174322)で整理してあります。)。この判例を参考にすれば、強制加入における不利益について判例がどのような点に着目しているかがわかります。そして、その不利益を防ぐことが保障根拠になるという風に考えれば、本件の具体的事情に即した検討が可能になります。

南九州税理士会事件においては、団体の構成員の「様々な思想・信条及び主義・主張」を侵害するおそれがあることに着目し、不利益の程度を決めていました。憲法上、「結社」の自由は21条1項で保障されており、表現活動の一形態として考えられている[2]ことから、ここでは「主義・主張」という表現活動に関係のある部分のみに着目することになるでしょう。すなわち、消極的結社の自由の保障根拠は、各個人の主義・主張への不利益の防止であることになります。具体的には、その団体の主義・主張を強制されることによって、個人の人格形成の基盤となるような主義・主張が歪められることや外部に表示できなくなることの防止ということになるでしょう。

⑴ 権利の性質及び制約の程度

では、本問において、このような不利益の防止を阻害することになるのか(単純に、不利益を受けているのか)を考えていくことになります。本問においては、商店会に入ることにより大型店としての経営方針に揺らぎが生じてしまうことから、商店会に加入するか否かは会社の性格形成に関することであるといえます。そうすると、商店会への強制加入は、事業者の経営方針・決定を歪めることになり、不利益の程度が大きい(制約の程度が大きい)ということになり得ます。

 ただし、人格を毀損することになるのでしょうか。経済活動を中心とした組合は、人格的つながりが希薄であり、人格形成の基盤に対する大きな制約にはならないといわれています。本件では、“商店会”という団体の性格をどのように捉えるのかにより、構成員になった場合の不利益がなにかを考えていくことになるでしょう。商店会はあくまでも経済的なつながりにすぎないことから、協力義務として経営方針に口を出すことになるものでありません。そうであるならば、加入するか否かを迫るだけでそれ以上の判断を歪めることにはならないでしょう。他方で、商店会に入るということは、商店会の方針についてもある程度従う必要が出てきます。今回では、会費の支払です。この会費額は大型の事業者にとっては大きな損失を伴うものであり、経営方針等の変更を余儀なくされます。そうだとすれば、これは人格的な部分に対する負担ともいえます。

⑵ 裁量の有無・幅

 裁量についても言及する必要があります。結社の自由といっても、本件では、経済活動における結社の自由です。そのため、立法裁量が認められる余地があるのか、あるならばその幅はどの程度なのかを考えなくてはなりません。ここでは、二重の基準や規制目的二分論の根拠に遡り、裁量の有無・広狭を検討することになります。

 そもそも、経済的自由権に裁量が認められるとした理由は、社会経済の分野における「法的規制措置の必要の有無や法的規制措置の対象・手段・態様などを判断するにあたっては、その対象となる社会経済の実態についての正確な基礎資料が必要であり、具体的な法的規制措置が現実の社会経済にどのような影響を及ぼすか、その利害得喪を洞察するとともに、広く社会経済政策全体との調和を考慮する等、相互に関連する諸条件についての適正な評価と判断が必要」であるという点です[3]。すなわち、社会的相互関連性が強い分野であるため、多種多様の要素を考慮する必要があるため、立法の裁量を尊重すべきであるということになります。この理由からすれば、すくなくとも、本条例の目的との関係からするに、本問における商店会についての経済的結社の場合にも妥当するものと考えられます。

 妥当するものとして、その幅はどの程度でしょうか。規制目的二分論を適用できるかが問題になります。ここについても、積極目的・消極目的と裁量の幅との関係についての根拠に遡った検討が求められます。なお、個人的な意見としては、上記のように裁量を認めるのであれば、規制目的二分論も妥当するものと考える方が一貫性が取れると考えます。

 

4 個別具体的検討

 目的の評価については、職業の自由と同じでしょう。他方で、手段については、職業の自由と同様に考えることはできません。手段審査における必要性・相当性の検討に際しては、不利益を考えることになりますが、職業の自由と結社の自由とでは不利益の差が異なってくるからです。この点も事実をいかに拾い、評価するかがポイントになってきます。この検討については、各自で考えてみてください。

 

Ⅳ 注意点

 予備試験の試験時間が70分しかないことを考えると、どちらかの権利を選択し、それを軸に書くのが妥当だと思います。この事案のもとになったと考えられる3小判平成17・4・26判時1898号54は、職業の自由との関係について判断しました(なお、第一審では消極的結社の自由との関係が中心的な議論だったと言われています。ただし、私自身が確認できていないので、詳細なコメントはできません。)。そのため、職業の自由を選択するのが戦略としては正しいのでしょう。ただし、問題文のニュアンスからして、消極的結社の自由が中心的なように感じられます。現場の戦略はどれがいいのかは甲乙つけがたいです。

 実際、私が添削したことのある答案では、職業遂行の自由として構成している答案が多数でした。原告としては、職業選択の自由として主張したいところですから、制約の重大性(もしくは保障範囲)での強気の説得的論証が求めたいところです。権利の重要性についても、薬事法違憲判決の一般論を示すだけでなく、より具体的な事実に踏み込んだ検討が求められます(特に人格的価値との関係についての検討です。)。判断枠組みの定立において、具体的事実にどれだけ言及できるかが重要です。

 消極的結社との関係では、普通、経済的自由権に使われる判例理論を消極的結社への適用ができるのかについての検討が求められています。かなり発展的な内容ですが、一度でいいですから、考えてみて、自分なりの現段階での結論を持っておくといいと思います。この部分を除けば、今までやってきたことを踏まえれば、合格答案は書けるはずです。本質を押さえることが大事です。これからも頑張っていきましょう!

Fin

 

[1] 最3小判平成8・3・19民集50巻3号615頁[Ⅰ-36]

[2] 勘違いしてほしくないのですが、表現の自由の中に結社の自由があるというわけではありません。条文の文言「その他」の使い方からして、表現の自由と結社の自由は同列に扱われるものです。本文で表現形態の1つと書いたのは、この違いを意識しています。

[3] 小売市場判決を参照している。