J-Law°

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interval : 司法試験予想問題民法【検討編】

作成当時の”出題趣旨”を掲載します。

改正民法の影響は、設問1が一番大きな影響を受けていると思います。この点については、関連条文を踏まえて検討をお願いします。他分野に渡る法律問題を問う最近の傾向の問題になります。

設問2は、代理権の濫用の根拠条文の指摘くらいが変更点です。それ以外は、旧民法と変わらないと考えます。判例の射程について、どれだけ考えることができたかという問題です。

設問3は、全く影響がないと思っています。一見すると、判例を知って入れば簡単そうに見えますが、過失相殺については一捻り入れています。

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【民事系科目】

〔第1問〕

 本問は,民法の幅広い分野から,民法の基礎的な理解とともにその応用力を問うものであり,当事者の主張を踏まえつつ法律問題の相互関係や当該事案の特殊性を論理的に分析して自説を展開する能力が試されている。

 設問1は,請負契約の瑕疵担保責任に基づく損害賠償債権と報酬債権の相殺,異議のとどめない承諾における「事由」及びその主観的要件等といった債権法の複数の制度・規定について,基本的な理解ができているか,その理解を具体的な事実関係に基づいて各制度・規定の相互の関連性を含めて適切に展開することができるかを問うものである。複数の論点の検討を要する問題を通して,事案に則して論理を着実に展開する能力が試されている。

 設問1の事実関係の下において,Aがいかなる反論ができるかを検討する前提として,AB間でなされた本件設計図に関する業務委託契約(以下「本件契約」という。)の法的性質が問題となる。本件契約が請負契約(632条)であれば,AがBに対して有する債権は,瑕疵担保責任に基づく損害賠償債権(634条2項)となる。他方,本件契約が準委任契約(643条)であると考えれば,債務不履行に基づく損害賠償債権(415条)または不法行為に基づく損害賠償債権(709条)を有することになろう。そのため,請負契約と準委任契約の判断基準を定立した上で,Aの業務内容(【事実】1)や契約書の記載(【事実】3)の事情を考慮し,本件契約の性質を特定する必要がある。本問では,完成が確定された後に,報酬が支払われていることから,請負契約ということになろう。

 請負契約と解釈した場合,Aの反論としては,Bに対する瑕疵担保責任に基づく損害賠償債権と報酬債権との同時履行の抗弁権(643条2項後段・533条)及び相殺(505条1項・506条)を主張することが考えられる。いずれの主張であったとしても,設問1の事実関係において,「瑕疵」や「損害」などの瑕疵担保責任の要件をみたすかを簡潔に検討する必要はある。

 その上で,瑕疵担保責任に基づく損害賠償債権と報酬債権の相殺が,「債務の性質がこれを許さないとき」(505条1項ただし書)にあたるかが問題となる。すなわち,同時履行の抗弁権を付着している債権の相殺を認めることは,先履行の強制となるため,相殺することができないとの一般論を示した上で,請負契約の瑕疵担保責任に基づく損害賠償債権がいかなる機能を有するのか検討していくことになる。判例(最1小判昭和53年9月21日集民125号85頁)では,両債権の間で相殺を認めても,相手方に対し抗弁権の喪失による不利益を与えることにはならないものと解され,むしろ,相殺により清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない,法律関係を簡明ならしめるゆえんでもあるとして,その対当額による相殺を認めている。この判例を意識した論述が求められる。

 相殺が認められるとしても,BからCへの債権譲渡に際し,AはCに対し,異議のとどめのない承諾をしていることから,相殺がCに対して対抗できるかの検討を要する。この際には,468条1項の趣旨から「事由」の意義及び主観的要件について,論理を展開する必要がある。

 前者については,Aが異議のとどめのない承諾をした11月17日の時点では,報酬債権の弁済期が到来していないため,相殺適状に達していないことから,468条1項の「事由」にあたるかが問題となる。この点ついては,解除権が対抗できるかが争われた判例(最2小判昭和42・10・27民集21巻8号2162頁[百選掲載判例])が参考になる。468条2項が通知を受けるまでに生じた「事由」を対抗できるとしているところ,468条1項の趣旨は,異議のとどめのない承諾をした場合,このような「事由」が存在しないとの信頼が働き,これを保護することで取引の安全を図る点にある。ゆえに,468条2項の「事由」と同義と考えるべきであり,468条2項の趣旨は,債務者の利益の保護であることから,承諾の時点において,対抗する事由の基礎となる事情が存在していれば足り,事由そのものが発生している必要はない,というような説明が可能である。いずれにせよ,基準を定立した上で,設問1の事実関係の下では,債権譲渡が行われるにあたって,すでに瑕疵担保責任に基づく損害賠償債権が生じていることから,Aの主張する相殺が,「事由」にあたるかを検討することになる。

 後者については,譲受人の主観的要件が問題となる。この点については,上記判例では,468条1項の趣旨から,抗弁事由について悪意の譲受人は含まれないと判断するだけであったが,近時の判例(最2小判平成27・6・1民集69巻4号872頁[重要判例集掲載判例])で,譲受人が抗弁事由を知らないことについて過失のある場合について,譲受人は抗弁切断の効果を享受できないとしたものがある。いずれにせよ,譲受人の主観的要件について,適格な理由を示し,規範を立てた上で,設問1の事情(【事実】5)を考慮し,適格にあてはめ,妥当な結論を出す必要がある。

 設問2は,抵当権に基づく妨害排除請求としての乙建物退去請求に対する反論として,抵当権設定契約の有効性および妨害の有無について,問う問題である。参考となる判例はあるが,本問では未成年後見人であるという特殊性をどのように考慮するかについて,判例の射程を含めて,判例の正確な理解とその応用力を試す問題である。

 まず,Fが,Eの未成年後見人として,元夫Gの金銭消費貸借契約に基づく貸金返還債務について,Eの甲土地及び乙建物(以下「本件不動産」という。)に抵当権を設定した行為が,利益相反行為(860条・826条本文)にあたるかが問題となる。親権者における利益相反効についての判断は,客観的・外形的に判断するとした判例(最3小判昭和42・4・18民集21巻3号671頁など)を参考に,未成年後見人の場合の判断基準を定立する必要がある。この点について,判例は,代理行為の相手方が容易に知ることができない内部事情や親権者の動機等によって代理行為の効力が左右されるべきでないという,取引の安全の考慮に基づいている。そのため,未成年後見人であっても,同様の考慮をする必要性はあり,親権者と同様の基準を定立すれば足りると考えることができる。設問2の事実関係の下では,未成年後見人ではない第三者の債務についての担保設定をしていることから,通常,未成年後見人と未成年者との間の利害が対立することはないとされている。

 次に,利益相反にならないとしても,Fの行為が,代理権の濫用にあたり,抵当権設定契約が無効となるかが,問題となる。親権者の代理権濫用については,最1小判平成4・12・10民集46巻9号2727頁[百選掲載判例](以下「平成4年判決」という。)がある。もっとも,本問は,親権者ではなく,未成年後見人であることから,平成4年判決の射程が及ぶかを詳細に検討する必要がある。この点,平成4年判決は,親権者の代理権濫用についての判断であり,未成年後見人の代理権濫用に射程が及ぶとは考えにくい。そこで,親権者と未成年後見人をパラレルに考えることができるかを検討していく必要がある。

 平成4年判決は,一般的な代理権濫用についての判例(最1小判昭和42・4・20民集21巻3号697頁[百選掲載判例])を引用した上で,「親権者が子を代理してする法律行為は,……それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量に委ねられているものとみるべきである」とし,「それがこの利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど,親権者に子を代理する権限を授与した方の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り,親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべきである」とした。すなわち,平成4年判決の代理権濫用の有無の判断枠組みの定立にあたって,最も重視されたのは,「親権者の広範な裁量」である。

 広範な裁量を認めた趣旨を,単発的な行為が経済的に損であったとしても,将来にわたる子の福祉の観点から望ましいという判断する余地を与え,子の利益を図る点にある,と考えることはできる。このような考えによれば,平成4年判決の根底には,単に経済的利益という狭い観点から親の行為を近視眼的に評価すべきでなく,子の福祉に対して責任を負うべき親の総合的な判断を信頼して,親がする個々の行為の適切性を判断すべきであるという考えがあるといえる。そうだとすれば,未成年後見についても,同様の考えが及ぶとして,平成4年判決のように,厳格な判断枠組みを用いることはできる。

 他方,親権者と未成年後見人を同様に捉えることは困難であるという考えも成り立つ。親権者の広範な裁量は,相続権や扶養義務という親子間の特別に濃密な法律上の関係性や親の子に対する特別な愛情をもつことから,法的に認められたものであると考えることもでき,親権者がいない場合のピンチヒッター的な存在である未成年後見人では,このような事情は存在しない。また,未成年後見監督人を選任し,未成年後見人の行為について同意を要求するという形で制限することが可能であり(848条,857条),財産管理についても,財産の貯砂及び目録作成を義務付ける(853条)など,利益相反による規制以外にも代理権行使に制約がある。そのため,未成年後見人については,親権者と同様の広範な裁量があると同様に認めていいとは言い難い。このような考えによれば,代理権濫用に関して,あえて厳格に解する必要はなくなると考えられる。

 いずれの立場に立つにせよ,平成4年判決と本問との違いを意識した上で,規範定立をすることになろう。本問の事情では,Gに対する融資金の一部がEの教育費として利用されることから,子の利益を完全に無視し自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としているとは言えないことになる。そのため,平成4年判決と同様に厳格に解した場合,代理権濫用自体に当たらないとして,抵当権設定契約は有効となろう。また,代理権濫用に当たるとしても,Gが追及を途中でやめたという事情(【事実】8)から,有過失が認められるかを検討することになる。有過失を認めないのであれば,抵当権設定契約は有効となる。

 Aの反論として,賃借権に基づく占有であることから,妨害とはならないとの反論が考えられる。そこで,正当占有権原を有する占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求が認められるかが問題となる。抵当権の本質は,目的物の交換価値を把握する点にあることから,交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときに,抵当権者は,不法占有者に対して,妨害排除請求することができるとされている(最大判平成11・11・24民集53巻8号1899頁[百選掲載判例])。もっとも,占有権原を有する者については,抵当権設定者の目的物の利用にすぎず,交換価値が害されるおそれがない。これより,判例(最1小判平成17・3・10民集59巻2号356頁[百選掲載判例])は,「抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的」という加重的要件を付与している。設問2の事情の下で,EI間の契約内容に関する事情を評価し,「競売手続を妨害する目的」を有するか否かを検討することが求められる。

 設問3は,未成年Eの不法行為により生じた交通事故について,誰がその責任を負うことになるのかを検討させる問題である。また,賠償額に対する反論として,Kが携帯電話を操作しており,片手運転であったことから,過失相殺が認められるかを検討することになる。いずれも,不法行為に関する典型的な論点及び近時重要判例であり,基本的な知識と理解を問う問題である。

 Jが請求することができる相手として考えられるのは,E,未成年後見人F,Kである。

 Eについては,責任能力の有無が問題となろう。しかし,責任能力については,年齢のみならず諸般の事情を考慮し判断しなければならないところ,本事例においては,その判断をつけることは難しい。そのため,責任能力がある場合とない場合とで,場合分けをする必要性がある。

 Eに責任能力がない場合,Eへの不法行為に基づく損害賠償請求は認められない(712条)。そこで,Eの監督義務者である未成年後見人Fに対して,損害賠償請求をすることになろう(714条1項本文)。この場合,「監督義務者がその義務を怠らなかったとき」(714条1項ただし書)にあたるかが問題となる。他方,責任能力が認められる場合,Eへの請求ができるが,これにとどまらず,監督義務者であるFに対する監督義務違反を理由とする損害賠償請求(709条)が可能である。いずれの場合であっても,Fの監督義務の内容が,どのようなものかを特定する必要がある。その際には,714条1項ただし書の解釈について判断した判例(最1小判平成27・4・9民集69巻3号455頁[重要判例解説掲載])を参考するとよい。すなわち,本問と同様の事例において,親権者の直接的監視下にない子の行動については,一般的なものにとどまらざるをえないことから,通常は人身に危険が及ぶものとは見られない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,一般的な監督義務を尽くしていれば,義務を怠ったことにならない,と判断される。本問でも,Eの行為が通常は人身に危険を及ぶものと見ることのできる行為か否か,通常の使用方法をしていたのか,ボールが道路に出ることが常態であったかなどの事情を考慮し,Fの監督義務の内容を適切に認定した上で,監督義務違反の有無を判断することになろう。

 賠償額に対する反論としては,過失相殺(722条2項)が考えられる。設問3の事実関係の下では,被害者であるJではなく,同乗者であるKの注意義務違反があることから,Kの過失が,「被害者」側の過失として,認められるかを検討することになる。判例(最3小判昭和42・6・27民集21巻6号1507頁)では,722条2項の趣旨が損害の公平な分担にあることから,「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者」の過失をも含むと判断していることを参考に,規範を立てることになろう。本問では,同居をしていないが,同居を始めるための荷物の運搬途中であったという事情を,どのように評価するかによって判断が分かれることになろうが,いずれの結論であっても,適当な評価がなされていればよい。

 なお,最3小判平成19・4・24判時1435号158頁では,「内縁の夫婦は,婚姻の届出はしていないが,男女が相協力して夫婦としての共同生活を営んでいるものであり,身分上,生活関係上一体を成す関係にあるとみることができる。そうすると,内縁の夫が内縁の妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが衝突し,それにより傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合において,その損害賠償額を定めるに当たっては,内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができると解するのが相当である」と判断している。他方,最3小判平成9・9・9判時1618号63頁は,「被害自動車の運転者とこれに同乗中の被害者が恋愛関係にあったものの,婚姻していたわけでも,同居していたわけでもない場合には,過失相殺において右運転者の過失が被害者側の過失と認められるために必要な身分上,生活関係上の一体性があるとはいえない。」との判断をしている。

 

※明日からは財産権の検討ができそうです!頑張ります!