J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題16:問題編~ゲームと憲法問題~

空の塔で合格思考憲法各論ゼミをやっています。

第3回で使用する問題は3問あるのですが、そのうち1問だけ特別に公開したいと思います。なお、ほぼ同じ内容の問題を中央大学の法職答練で出題されています。

 

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【問題】

 2019年,世界保健機構(WHO)が「ゲーム障害」を正式に疾病として認定した。「ゲーム障害」とは,「ゲームがそのほかの日常生活に優先し,問題が発生してもゲームを継続,あるいはさらに優先度を高め,それによって個人的,社会的に重大な障害をもたらすような反復的行動が少なくとも12か月にわたって継続する状態」をいい,ゲーム依存症とも呼ばれている。韓国では24歳男性が86時間連続でゲームをプレイし続け,下半身うっ血により死亡したという事例もあり,各国で実態の対応が行われ始めた。

 我が国においては,2016年になされた青少年のインターネット利用環境実態調査によると,青少年のインターネット利用者で,ゲームをする者は,全体の7割以上に及び,また,青少年の多くは,深夜までオンラインゲームを行うため,昼夜が逆転して,遅刻や欠席が続き,留年や退学を余儀なくされる学生も増えている。そのため,ゲーム障害に陥りやすいと考えられている。

 このような状況を鑑み,20**年,我が国でも,A省において,青少年の夜間のゲームを規制する「青少年夜間強制シャットダウン法」の立法を検討することになった。現在,A省では,20歳以下の青少年に対し,午後11時から午前8時までの間のゲームの利用を禁止する内容の立法措置(以下「強制シャットダウン制」という。)が検討されている。

 他方,我が国において,eスポーツの発達に伴い,未成年のプロゲーマーが出現している。eスポーツとは,「エレクトロニック・スポーツ」の略で,広義には,電子機器を用いて行う娯楽,競技,スポーツ全般を指す言葉であり,コンピューターゲームビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。プロゲーマーは大会の報酬などを基に生計を維持している。

 

【立法措置について】

 まず,立法措置としては,20歳以下の者(以下「青少年」という。)に対し,午後11時から午前8時までの間のゲームの利用が強制的にできないようにすることをゲーム会社に義務付けることを内容とする。この立法措置の目的は,青少年のゲーム障害の対策である。

 具体的な措置としては,ゲームのアカウントにマイナンバー(個人識別番号)を入力することで,それにより年齢を把握し,青少年のアカウントを特定する。そして,青少年のアカウントについては午後11時から午前8時までの間の使用ができず,結果的にゲームの利用が不可能になるというものである。なお,他の者のアカウントを使用した場合,使用させた者に対し罰則として罰金を課す。

 対象となるゲームは,日本のゲーム会社が発表したもの又は日本に海外のゲーム会社の支社があるものと対象とする。なお、オンラインゲームのみが対象ではなく、すべてのゲームが対象となる。オンラインゲームとは,インターネットなどの通信ネットワークを介して複数の人が同時に参加して行われるコンピューターゲームをいう。

 マイナンバーの利用については,盗用などのリスクがあるため,ゲーム会社に常に最新のプライバシー保護システムを採用することを義務付け,義務違反の場合には業務停止などの重大な罰則が定められている。

 

 A省における法案の検討の過程で,ゲーム会社から,子どものゲーム離れが進み,教育的に有効なゲームやコミュニケーションツールとしてのゲームなども利用できなくなり,教育的・文化的観点から不利益が大きいとの指摘がなされた。eスポーツ連合協議会から,青少年のプロゲーマーが国際大会等において強制終了せざるを得なくなり,また,日頃の特訓の時間が少なくなり大会での優勝が困難となることで,ゲーマーの収入としての優勝賞金の獲得が困難となってしまうとの指摘がなされた。

 

〔設 問〕

 あなたは,A省から依頼を受けて,法律家として,この立法措置が合憲か違憲かという点について,意見を述べることになった。A省からは,上記の立法措置の意見に加えて,仮に成年のゲーム障害の防止のために、成年も含めて同様の規制を行った場合についての意見も求められた。また,参考とすべき判例があれば,それを踏まえて論じるように,そして,判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じるように求められている。さらに,当然ながら,この立法措置のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にする必要があるし,自己の見解と異なる立場に対して反論する必要があると考える場合は,それについても論じる必要がある。

 以上のことを前提として,あなた自身の意見を述べなさい。

 なお,未成年のプロゲーマーの大会出場において保護者の承諾があり適法な行為であることを前提とする。また,成年のプロゲーマーとの関係及びゲーム会社との関係における憲法上の問題については検討しなくてよい。