J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題10:検討編③~本問の検討~

検討編②(https://j-law.hatenablog.com/entry/2020/06/14/190223)で整理した知識を、本問にあてはめに考えてみましょう!ここが一番、難しい。

Ⅴ 財産権に関する本問の検討

 まず、本条例3条1項による規制が、既得権型か制度形成型かの特定から始めます。確かに、所有権により所有物は自由に処分できることから転売もできるはずであり、その意味で制約があるとして、既得権型とも考えられなくはありません。しかし、本法2条3項1号によれば、契約上転売をすることができない所有権であり、それをわかってチケットの購入をしていることから、制約がないとするのが妥当だと考えます。そのため、制度形成型の事案と捉えるべきです。

 そのため、証券法164条事件の流れに乗せて判断枠組みを定立すればよいでしょう。すなわち、財産権の内容は立法の裁量に決められるが、「公共の福祉」による制限を受けることを前提として、財産権の種類・性質の多様性及び規制目的・態様の多様性から、公共の福祉に反するか否かを「規制目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度を比較考量して決すべき」との規範を定立することになります。

本問では、検討の対象となる本来的制度がどこなのかが問題となります。つまり、ⓐ所有権に基づく処分や契約自由の原則なのか、それとも、ⓑ本法3条1項の規制する「不正転売」ではない転売行為なのかという点です。前者であれば、私法の根幹をなす法制度といえるでしょうが、後者の場合、必ずしもそのように言えないのではないかという疑問が生じます。この点については、教科書的な見解はないので、自分なりに考えてほしいところです。

 この特定により、制限度合いが大きく変わってきます。つまり、ⓐのようにとらえた場合、制限の度合いは重大なものになると思います(100%から0%へ)。他方、ⓑのようにとらえた場合、もともとある程度規制された転売がさらに転売されていることから、程度としてはⓐほど大きいものと考えることができます。ただし、ここについても、私的自治の原則による契約自由の原則によって規定された転売禁止の合意が影響してくるでしょう。また、興行主への買取請求制度が設置されていることから、資本回収の機会は確保されています。このような観点も踏まえると、制限の程度は低いものとも捉えられます。ここは受験者が悩みを見せ、自分なりに考えて説得的な論理を展開することが求められます。

 目的については、「公共の福祉」に合致することに争いはないでしょう。流通の適正は経済活動等についての確保であることから、憲法上の権利に相当するほどのものを保護しているといえるからです。

 問題は、上記の不利益性を加味した上での全面的な転売禁止の必要性でしょう。ここについては、詳細な検討が必要となります。

 

Ⅵ 注意点

 平成30年度司法試験の問題形式と異なり,令和元年度司法試験の問題形式では誘導が少ないと評価されています。しかし,各段落に要素は詰め込まれており,いかに問題作成者との対話ができるか重要になってきているともいえます。事案の構造分析は、日本語で書かれた問題文をしっかり読むことから始まります。

 財産権は予備試験でも出題されている権利であり、最低限の勉強がなされているはずです。その上で、本問ではベースラインをどの位置に設定するのかといった踏み込んだ検討が必要になります。ここはかなり考えて自分なりに書くことが大事です。

 また、統治分野であっても一通り触れておくのが大切です。特に、司法権の対象、法律と条例の論点(条例制定権の限界)や白紙委任、委任を受けた政令の適法性、立法不作為と損害賠償請求などは最低限知っておくべき論点だと思っています。

 財産権や法律と条例に関する基本的な知識をマスターし、問題における個別事情をどのように評価するのか(他の法律科目における「事実を拾って評価する」と変わらない)を考えて、自分なりの結論を出すことが求められます。

Fin

 

※次回は、intervalとして、検討課題9の参考答案でも掲載しようと思います。

 次々回以降については、仕事の関係で予定を伝えられません。なにか一緒に検討してほしいものなどがあれば、気軽に直接連絡ください!