J-Law°

司法試験・予備試験受験生やロー受験生のモチベーション維持のために、定期的に問題の検討をしていきます。

検討課題2:検討編③~個別具体的検討~

Ⅴ 個別具体的検討

1 目的の検討

 目的については,まず,目的をきっちりと認定することから始めましょう。ここでの目的は,違憲の対象となっている部分の目的です。すなわち,本件法4条の目的であり,本件法全体の目的(本件法1条)ではありません。本件法1条は,本件法4条の目的を検討するうえで参照に値するものにすぎないのです。

 本件法4条の目的は,多様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを確保し,視聴者の利益を保護する点にあります。厳格な合理性の基準以上の基準を採用した場合,目的は少なくとも他の人権の保護を図るものでなくてはなりません。そうだとすれば,ここでいう「視聴者の利益」が憲法上の権利に匹敵するようなものでなければならないことになります。ここでいう「視聴者の利益」とは,消費者としての知る自由(憲法21条1項)でしょう。そのため,目的は,他の人権保護の目的を有するといえます。

 ただし,立法事実等に基づく緊急性・緊迫性まで認められるかについては争いがあると思います。現在すぐにやらなければいけないような事情はないことから立法事実はなく,必要不可欠とまではいけないことになるのでしょうか。

 

2 手段の検討

 まずは,手段を認定することから始めましょう。手段の認定をせずに,評価することなどできません。本件法4条の手段は,午後6時から同11時までの時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限しなければならないというものです。

 この点について,目的の達成が可能か否かが争点となるでしょう。被告としては,1時間ごとの広告放送の時間が短縮されることで,放送番組の時間が拡大し,多様で質の高い放送番組が製作されると主張することになります。これに対し,原告としては,「放送事業者としては,東京キー局の場合,1社平均で数十億円の減収が見込まれている。X局としては,本件法律が制定されたことによって広告放送制限を余儀なくされ,多くの販売会社との契約を獲得することができず,20億円減収し,放送番組作成にかける予算を削減せざるを得なくなった。」や免許取消のおそれがあるという事情をどのように評価するかにかかっていると思います。X局固有の話ではあるが,どこまで一般化することができるかという点も考えどころです。というのも,法令違憲の場合,一般レベルでの議論が求められるからです。

 これらの事情をどのように考えるかによって,本問の結論は異なることになると思います。

 

Ⅵ おわりに・・・

 本問は、いわゆる主張反論私見です。この問題形式においては、反論の的となる原告の主張がおざなりだと、的が絞れず、議論が充実しません。そのため、原告の主張を丁寧に展開する必要があります。その際、私見で同様の内容を書くことになるかもしれませんが、それでも構わないと思います。ただし、少なくとも、被告の反論が端的に示されていることから、被告の反論も踏まえて、自己の考えを展開しなければならず、全く同じになることにはならないと思います。

 近年の司法試験の出題形式とは異なりますが、基本的な思考に変化はありません。本問を使って、基本的な思考を確認しつつ、具体的事例に迫った検討をする練習になると思います。ぜひ議論をしてみてください。

Fin